相続税対策はいつから始めるか|60代・70代・80代で使える手が変わる【群馬・高崎】

「相続の対策って、何歳くらいから考えるものなんでしょうか」

先日、67歳の方からこう聞かれました。まだ早いと思っている口ぶりでした。

早くありません。むしろ、いちばん選択肢が多い年齢です。同じ財産、同じ家族構成でも、始める年齢によって使える手が変わり、結果として税額が1,000万円以上変わります。

理由は単純で、対策の効き目のほとんどが「あと何年続けられるか」で決まるからです。そして、続けられる年数は誰にも分かりません。

60代、70代、80代。それぞれの年代で何ができて、何ができなくなるのかを書きます。

20年と5年で、1,000万円の差がつく

先に数字を見ます。

・財産の総額 1億5,000万円

・相続人は子2人、孫が3人

・基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円

何もしなければ、相続税の総額は1,840万円です。

お孫さん3人に、毎年110万円ずつ贈与した場合で比べます。お孫さんが相続で財産を取得しなければ、生前贈与加算の対象外です。何年前の贈与でも足し戻されません。

・20年続けた場合 → 6,600万円を移転。税額530万円(1,310万円の差)

・10年続けた場合 → 3,300万円を移転。税額1,100万円(740万円の差)

・5年続けた場合 → 1,650万円を移転。税額1,430万円(410万円の差)

やっていることは毎年同じです。違うのは年数だけ。それで900万円の差がつきます。

この表を見て「では20年やろう」と考えるのは、少し違います。20年前に始めた人だけが20年分を得られる、というのが実際のところです。始めた時点から後ろにしか、時間は伸びません。

60代|まず自分の財産を確定させる

60代でご相談に来られる方には、まず財産の棚卸しをお勧めしています。節税の話はその後です。

理由は、この年代では財産がまだ動くからです。退職金が入る、住宅ローンが終わる、親の相続で不動産を受け取る。5年前の想定が、今は当てはまらないことがよくあります。

この年代で始めておくと効くのは、次のようなことです。

・財産の一覧を作り、相続税の概算を出す

・不動産のうち、使っていない土地を整理する(売る、貸す、直す)

・暦年贈与を始める(7年ルールを超えられる年数がある)

・アパートなど収益物件を持つなら、法人化や名義の設計を検討する

3つ目が大きいです。60代で始めれば、お子さんへの贈与でも7年の加算期間を超えられる可能性が高い。80代で始めると、渡した分がほぼ全部戻ってきます。同じ制度でも、年齢によって使えたり使えなかったりします。

一方で、この年代で気をつけたいのは渡しすぎです。ご自身の生活費と、将来の医療・介護費用を残さずに贈与を進めてしまうと、後で困ります。私は、老後資金として夫婦で2,000万円から3,000万円は手元に残すことを前提に試算しています。

70代|いちばん動きやすい10年

実務でいちばん相談が多く、いちばん結果が出るのがこの年代です。

財産の全体像が固まっていて、判断能力もあり、まだ時間もある。3つが揃うのは70代までだと考えています。

・暦年贈与を、子から孫、子の配偶者まで広げる

・生命保険の非課税枠を使い切る

・遺言書を作る(できれば公正証書で)

・家族信託や任意後見の設計をしておく

・自宅の土地に小規模宅地等の特例が使えるか、誰が取得するかを決めておく

2つ目の生命保険の非課税枠は、この年代でまだ間に合います。一時払い終身保険なら80代後半まで入れる商品もありますが、選択肢は年齢が上がるほど狭くなります。健康状態の告知が必要な商品もあるので、早いほうが有利です。

4つ目も、この年代でやっておくべきことです。家族信託も任意後見も、判断能力があるうちにしか契約できません。認知症になってからでは、対策そのものが止まります

70代の方に私がよく申し上げるのは、「10年計画で組みましょう」ということです。1年で全部やろうとすると、贈与も保険も無理が出ます。10年あれば、無理のない金額で相当のことができます。

80代|効く手は3つに絞られる

80代になると、時間を前提とした手立ては外れます。暦年贈与を子に対して続けても、7年ルールでほぼ戻ってきます。

それでも、効く手は残っています。3つです。

ひとつめ、相続時精算課税の年110万円。この基礎控除の部分は相続財産に足し戻されません。7年ルールの外にあります。子2人に5年続ければ1,100万円が確実に外れます。

ふたつめ、生命保険の非課税枠。期限がありません。契約した翌日に相続が起きても枠は使えます。預金1,000万円を一時払い終身保険に組み替えるだけで、課税価格が1,000万円減ります。

みっつめ、孫への暦年贈与。お孫さんが相続で財産を取得しなければ、年数に関係なく加算されません。

先ほどの家族で、精算課税110万円を子2人に5年、それに保険1,000万円を組み合わせたとします。移転できるのは2,100万円。相続税の総額は1,340万円で、500万円下がります。

20年計画の1,310万円には及びません。それでも、何もしない場合と比べれば500万円です。80代だから手遅れ、ということはありません。

この年代で優先していただきたいのは、むしろ遺言書と判断能力の確保のほうです。分け方が決まらないと、小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も使えません。節税の工夫より、そちらの影響のほうが大きくなります。

節税は、4番目にやること

年代の話をしてきましたが、順番はどの年代でも同じです。

・1番目 総額を知る(そもそも相続税がかかるのか)

・2番目 分け方を決める(揉めない形にする)

・3番目 納税資金を用意する(現金で10か月以内に払えるか)

・4番目 税額を下げる

節税は最後です。順番を飛ばすと、たいてい失敗します。

よくあるのが、贈与を進めすぎて手元の現金が減り、納税資金が足りなくなる形です。不動産が中心の家では、相続税を現金で払えず、結局その不動産を売ることになります。急いで売れば買い叩かれます。節税で200万円得をして、売却で500万円損をする。実際に起こります。

1番目で「かからない」と分かれば、それ以降は不要です。相続税がかからない家に贈与を勧めるのは、意味がないどころか、老後資金を減らすだけの行為です。

上の世代が片付いていない家

冒頭の67歳の方の話に戻ります。

財産の一覧を作っていただこうとしたところ、話が止まりました。ご実家の土地の名義が、まだお父さまのままだったのです。お父さまが亡くなったのは十数年前。ご兄弟の間で「そのうち決めよう」となったまま、手をつけていませんでした。

この状態では、ご自身の財産がいくらなのかが確定しません。その土地を最終的に相続するのかどうかで、総額が数千万円変わります。ご自身の対策を立てる前に、上の世代の分割を終わらせる必要がありました。

しかも、その間にご兄弟の一人が亡くなれば、相続人はさらに増えます。相続登記の義務化により、2027年3月31日という期限も迫っていました。

結果として、その方の「相続対策」は、まずご自身が相続人である案件を片付けることから始まりました。順番として、これは正しいと思っています。

ご自身の相続を考え始めた方は、上の世代の相続が完全に終わっているかを先に確認してください。名義が変わっていない土地が1筆でもあれば、そこが出発点です。

始めどきは、年齢では決まらない

年代別に書いてきましたが、実際の始めどきは年齢ではなく、出来事で決まります。

・退職して、財産の全体像が固まったとき

・親の相続が終わり、自分が財産を受け取ったとき

・配偶者が亡くなり、次は自分の番だと考えたとき

・大きな病気をしたとき

・子や孫の進学、結婚など、まとまったお金が動くとき

とくに2番目と3番目は、動くべきときです。配偶者を亡くされた後の相続、いわゆる二次相続では、配偶者の税額軽減が使えず、相続人の数も減るため、税額が跳ね上がります。一次相続の直後に手を打つかどうかで、結果が大きく変わります。

対策の効き目は、続けた年数に比例します。そして続けられる年数は、後から増やせません。今日が、これから先でいちばん早い日です。

何から始めればいいか分からない方へ

たかさき相続税・贈与税相談プラザでは、財産の棚卸しと相続税の概算から始めています。そもそも相続税がかからない家であれば、そのことをお伝えして終わりです。かかる場合は、ご年齢とご家族の構成に合わせて、何年計画で何を行うかをご提案します。

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公認会計士・税理士 長島祐太