「保険は若いうちに入るものでしょう。86歳の母が今から入れる保険なんてありませんよね」
あります。しかも、相続税の対策としては、この年齢からでも十分に間に合う数少ない手段です。
死亡保険金には、相続人の数に応じた非課税枠があります。預金のまま持っていれば全額に相続税がかかりますが、保険金に変えておけば枠の分だけ消えます。手続きは、預金を保険料として一度払い込むだけです。
ただし、受取人を誰にするかを間違えると、この枠は使えません。契約の形によっては、相続税ではなく所得税や贈与税がかかることもあります。
効く仕組みと、間違えやすい点を書きます。
目次
500万円×法定相続人の数
死亡保険金は、受取人が指定されていれば受取人固有の財産です。遺産分割の対象になりません。それでも相続税の計算上は、みなし相続財産として課税の対象に入ります。
その代わりに非課税枠があります。
500万円×法定相続人の数。相続人が子2人なら1,000万円、配偶者と子2人なら1,500万円です。
数え方は基礎控除と同じで、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えます。養子は実子がいれば1人まで、実子がいなければ2人までです。
ただし、この枠を使えるのは相続人が受け取った保険金だけです。ここが大事なところです。
お孫さんを受取人にしていると、枠は一切使えません。相続放棄をした人が受け取る場合も同じで、人数には数えられるのに、その人の受け取った保険金には枠が使えません。
複数の相続人が受け取る場合、枠はそれぞれが受け取った金額の割合で按分されます。1人が全額受け取れば、その人が枠を全部使えます。
預金1,000万円を保険に変えて、280万円
数字で見ます。
・財産の総額 1億5,000万円
・相続人は子2人(非課税枠1,000万円)
・基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円
何もしなければ、相続税の総額は1,840万円です。
預金のうち1,000万円を一時払い終身保険の保険料にあて、死亡保険金1,000万円、受取人を子とします。保険金は非課税枠にちょうど収まるので、課税価格から1,000万円が消えます。
課税価格は1億4,000万円、相続税の総額は1,560万円。差は280万円です。
やったことは、預金を保険料として払い込んだだけ。財産が減ったわけではありません。手元の1,000万円が、亡くなったときに1,000万円として子に渡る形に変わっただけです。それで280万円動きます。
効き目がここまではっきりしている手段は、実はそう多くありません。生前贈与は7年ルールで足し戻されるのに対して、非課税枠には期限がありません。契約した翌日に相続が起きても、枠は使えます。
一時払い終身保険が使える理由
冒頭の質問に答えます。高齢でも入れる保険があります。
一時払い終身保険は、保険料をまとめて1回で払い込む終身保険です。相続対策で使われるのはこの型で、理由が3つあります。
・加入できる年齢の上限が高い。80代後半まで入れる商品があります
・健康状態の告知が簡単、または不要な商品がある
・終身なので、いつ亡くなっても保険金が出る。掛け捨てのように期間が切れません
払い込んだ金額と、死亡保険金の額はほぼ同じか、保険金のほうが少し多い程度です。運用で増やす商品ではありません。増やすことが目的ではなく、預金という形を保険という形に変えることが目的です。
注意点も書いておきます。
途中で解約すると、払い込んだ額を下回ることがあります。数年以内の解約は元本割れが前提だと考えてください。ですから、老後の生活資金や、介護費用に充てる可能性のあるお金を回してはいけません。使う予定のない部分だけを動かします。
それから、判断能力が失われると契約はできません。認知症の診断が出てからでは間に合いません。これは保険に限った話ではありませんが、対策の期限は相続ではなく、判断能力のほうにあります。
受取人を配偶者にすると、枠が無駄になる
受取人を誰にするか。ここで結果が変わります。
多くのご家庭が、配偶者を受取人にしています。自然な選択ですが、相続税の面では損をしていることがあります。
配偶者には、1億6,000万円か法定相続分のどちらか多い金額まで相続税がかからないという税額軽減があります。もともと税金がかからない人に非課税枠を使わせても、枠が二重になるだけで効果が出ません。
受取人をお子さんにすれば、お子さんの課税対象が非課税枠の分だけ減ります。同じ保険で、効き方が変わります。
さらに、配偶者が受け取った保険金は、その配偶者が亡くなるときの相続、いわゆる二次相続で改めて課税されます。一次相続で子に渡しておけば、そこで完結します。
逆に、お孫さんを受取人にするのは避けてください。非課税枠が使えないうえに、相続税額が2割加算されます。加えて、保険金を受け取ったことで「相続により財産を取得した人」になるため、そのお孫さんへの生前贈与が過去にさかのぼって加算対象になります。三重に不利です。
受取人が先に亡くなっていた家の話
高崎市内でご相談を受けたケースです。
お父さまが亡くなり、生命保険の証券を確認したところ、受取人がお母さまのままでした。お母さまは5年前に他界されています。契約は20年以上前のもので、それきり触っていませんでした。
受取人が先に亡くなっている場合、保険金は受取人の法定相続人が受け取ることになります。この家では、それがご兄弟3人でした。結果として保険金は3人で均等に分けることになりました。
お父さまは、実家を継ぐ長男に多く残すつもりでいらっしゃったそうです。保険金を長男の受け取りにしておけば、その意図どおりになりました。手続きも、請求書類に3人分の戸籍と署名が必要になり、支払いまでに時間がかかりました。
保険証券をご覧になったのは、何年前でしょうか。受取人欄の確認は5分で終わります。名義変更の手続きも、保険会社に連絡すれば無料です。
契約の形で、かかる税金が3通りに変わる
生命保険は、誰が保険料を払い、誰に保険をかけ、誰が受け取るかの組み合わせで、かかる税金の種類が変わります。
・保険料を払った人=父、被保険者=父、受取人=子 → 相続税(非課税枠が使える)
・保険料を払った人=子、被保険者=父、受取人=子 → 所得税(一時所得)
・保険料を払った人=父、被保険者=母、受取人=子 → 贈与税
非課税枠が使えるのは、いちばん上の形だけです。
2つ目の所得税になる形は、意外に不利ではありません。一時所得は、受け取った保険金から払い込んだ保険料と特別控除50万円を引き、その半分だけが所得になります。保険料800万円で保険金1,000万円なら、所得は75万円。他の所得と合算されますが、負担は小さく収まります。
問題は3つ目です。贈与税は税率が高く、この形になっているとかなりの負担になります。父が母に保険をかけ、受取人を子にしている契約は、意図せずこの形になっていることがあります。証券を見れば分かるので、確認してください。
保険金は、分けられる財産である
最後に、税額とは別の効き目を書きます。
保険金は受取人固有の財産です。遺産分割協議の対象になりません。だから、話し合いがまとまらなくても、受取人がひとりで請求して受け取れます。ここが預金と決定的に違います。
これが効く場面が2つあります。
ひとつは納税資金です。相続税は現金で、10か月以内に納めます。不動産が中心の家では、分割協議が長引くと預金を動かせず、納税だけが迫ります。保険金なら、通常は請求から1週間程度で振り込まれます。
もうひとつは代償分割の原資です。実家を長男が相続し、次男に現金を渡す。この現金を用意する手段として保険が使えます。分けられない不動産をどう分けるかの記事にも書きましたが、代償分割が成立しない理由のほとんどは資金です。受取人を長男にしておけば、そこが解決します。
保険に回すべき金額は、非課税枠と納税資金の見込みから逆算します。そのためには、まず財産の総額と相続税の見込み額が要ります。相続税がかかるかどうかの確認から始めてください。かからない家であれば、保険に組み替える必要はありません。
保険の使い方を確認したい方へ
たかさき相続税・贈与税相談プラザでは、財産の総額と相続税の見込みを出したうえで、非課税枠がいくら余っているか、受取人の指定が意図どおりかを確認しています。保険商品の販売はしておりませんので、税額の観点だけでお話しします。証券をお持ちください。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ
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公認会計士・税理士 長島祐太
















