相続税の税務調査|何を見られ、何を聞かれるか【群馬・高崎】

「うちみたいな普通の家に、税務調査なんて来ませんよね」

申告書に押印をいただく日、多くの方がそうおっしゃいます。半分は確認で、半分は願望だと思います。

私はいつも同じ答え方をします。来る確率は高くありません。ただし、来たときに何も出てこない家のほうが少数です。

相続税の税務調査は、法人の調査とも所得税の調査とも性格が違います。帳簿を見に来るのではなく、家庭の中を見に来る。だから、身構える場所も違います。今日は、何を聞かれ、何を見られるのかを書きます。

確率は低い。しかし入られたら八割で何か出る

国税庁が毎年、調査の状況を公表しています。令和六事務年度の数字を挙げます。

・相続税の実地調査 九千五百十二件

・そのうち申告漏れ等があった件数 七千八百二十六件(八十二・三パーセント)

・一件当たりの申告漏れ課税価格 約三千百万円

・一件当たりの追徴税額 約八百七十万円

同じ年分で、相続税の申告書を出した被相続人は約十六万七千人でした。単純に割れば、実地調査に入られるのは十八人に一人ほどになります。低いといえば低い。

問題は次の数字です。入られたうちの八割強で、何かしらの申告漏れが見つかっている。一件あたり八百七十万円の追徴です。

この八割という数字を、私は「調査官の目が厳しい」とは読みません。逆です。何も出そうにない家には、そもそも来ない。資料を突き合わせて、出る見込みが立った家にだけ来る。だから八割になるのだと考えています。

なお、実地調査とは別に「簡易な接触」という手法があり、こちらは年間二万件を超えます。文書や電話で問い合わせが来て、修正申告を促されるものです。自宅に来る調査だけが接触ではありません。

いつ、どうやって始まるか

申告してすぐには来ません。多いのは申告の一年後から二年後です。時期としては秋、九月から十一月に集中します。国税の事務年度が七月に切り替わり、新しい体制で動き出すのが夏の終わりだからです。

始まり方は電話です。税理士が関与していれば、まず税理士のところに連絡が入ります。「相続税の件で、ご自宅に伺いたい」と。そこで日程を調整します。都合が悪ければ動かせます。

場所は原則として、亡くなった方が住んでいた自宅です。そこに何があったかを見たいからです。通常は二人一組、二日間。一日目は自宅で、午前十時ごろから始まります。

午前中の雑談が、実は本番

亡くなった方について

午前中は、資料をほとんど開きません。世間話のような質問が続きます。

・どんなお仕事をされていましたか。定年はいつでしたか

・退職金はどのくらい出ましたか

・ご趣味は何でしたか。株や不動産に興味はありましたか

・入院はいつからですか。それまでお元気でしたか

・通帳と印鑑は、どなたが管理されていましたか

雑談に見えますが、全部つながっています。職歴と退職金がわかれば、生涯収入の見当がつく。それに対して申告された財産が少なすぎれば、どこかに消えた分があることになります。趣味を聞くのは、証券口座や会員権の存在を探るためです。

最後の「通帳と印鑑を誰が管理していたか」が、この日の核心です。

相続人について

相続人自身のことも聞かれます。

・お仕事は。年収はどのくらいですか

・ご自宅は持ち家ですか。購入資金はどうされましたか

・お子さんの学費や、住宅資金の援助を受けたことは

相続人の預金残高が、その人の収入から説明できるかを見ています。専業主婦の口座に数千万円あれば、当然「これはどこから来たお金ですか」になります。

何を見られるか

申告漏れとして見つかる財産の内訳を見ると、傾向がはっきりしています。令和六事務年度は、現金・預貯金等が八百三十七億円で最も多く、有価証券三百九十三億円、土地三百五十三億円と続きます。三分の一近くが現預金です。

だから、調査官が本気で見るのは通帳です。

しかも亡くなった方の通帳だけではありません。配偶者、子、孫の口座まで見ます。金融機関への照会は事前に済ませてあるので、こちらが出さなくても残高と入出金は把握されています。自宅で通帳を見せてもらうのは、手元にあるものと照合するためです。

遡る期間は、過去五年から十年。この間の大きな入出金は、ほぼ確実に理由を聞かれます。亡くなる直前に引き出された現金は、必ず追及の対象です。葬儀費用に充てたのなら、その説明ができるようにしておいてください。

午後になると、実際に家の中を見せてほしいと言われることがあります。仏壇、金庫、和室の押し入れ、寝室のたんす。強制ではありませんが、断る理由もありません。手元にある現金は、亡くなった日にあった分は相続財産です。

貸金庫があれば、開けます。契約の有無は照会でわかっています。中身が空でも、過去に何が入っていたかを聞かれます。

名義預金という最大の争点

実務で一番もめるのが、名義預金です。

口座の名義は子や孫。でも、お金を出したのは親。通帳も印鑑も親が持っていて、名義人は口座があることすら知らない。この状態のお金は、名義が誰であっても親の財産として扱われます。

数年前、申告のご依頼をいただいた高崎市内のお宅で、こういうことがありました。

お母様が亡くなり、娘さんが手続きに来られた。財産の一覧を作っていく中で、娘さん名義の定期預金が出てきました。六百万円ほど。「これは母が私にくれたものなので、相続財産ではないですよね」とおっしゃいます。

私はいくつか確認しました。贈与契約書はありますか。ありません。贈与税の申告は。していません。通帳と印鑑はどこにありましたか。母の部屋の引き出しから出てきました。この口座があることは、いつ知りましたか。母が亡くなってからです。

これは名義預金です。贈与は、あげる側ともらう側の合意があって成立します。もらった本人が存在を知らないお金は、贈与されていません。

娘さんは納得されませんでした。母が自分のために貯めてくれたお金なのに、と。気持ちはわかります。ただ、これを外して申告して調査が来れば、印鑑の保管場所を聞かれた時点で終わります。そして「知っていて外した」と見られれば、加算税の種類が変わります。

結局、六百万円を相続財産に含めて申告しました。調査は来ていません。

生前贈与を確実に成立させる方法は暦年贈与の正しいやり方に書きました。通帳と印鑑を本人に渡す、というだけのことなのですが、これができていない家が本当に多いです。

隠したと判断されたときの重さ

申告漏れが見つかると、不足していた本税に加えて加算税がかかります。

単なる計算誤りや見落としであれば、過少申告加算税です。原則十パーセント。一定額を超える部分は十五パーセントになります。

これが「仮装または隠蔽」と判断されると、重加算税に切り替わります。三十五パーセントです。無申告だった場合は四十パーセント。さらに延滞税が乗ります。

本税が三百万円だったとして、過少申告加算税なら三十万円、重加算税なら百五万円。差は七十五万円です。

令和六事務年度に重加算税が課されたのは千六十五件。申告漏れが見つかった七千八百二十六件のうち、十三・六パーセントにあたります。八件に一件強です。

重加算税は、うっかりでは課されません。通帳を捨てた、聞かれて事実と違う答えをした、そういう行為があったときに認定されます。だから、調査で聞かれたことには正直に答えてください。わからないことは「わかりません」でいい。取り繕った答えが、一番高くつきます。

申告の段階でできる備え

調査は、来てから対策するものではありません。申告書を作る段階で、ほぼ決まります。

ひとつは、書面添付制度です。税理士が、どの資料をどう確認して申告書を作ったかを書面にして添付する。この書面が付いていると、税務署は調査に入る前に、まず税理士から意見を聴く手続きを踏むことになります。ここで疑問が解消すれば、実地調査に至らないことがあります。

もうひとつは単純で、預金の動きを最初にすべて洗うことです。過去十年分の通帳を並べて、大きな入出金の理由を一つずつ潰していく。名義預金があれば拾う。使途不明の引き出しがあれば説明を作る。この作業をしていれば、調査で聞かれることは事前に全部出ています。

逆に言えば、ここを飛ばした申告書は危ない。相続税の申告を自分でできるかという記事で、ご自身で申告する場合の注意点を書きました。財産の評価そのものより、この預金の洗い出しのほうが落としやすいところです。

そもそも自分に相続税がかかるのかどうかがわからない、という段階の方は、相続税はいくらからかかるのかから確かめてください。

冒頭の「うちには来ませんよね」という質問に、私はこう答えています。来ないように作ります、と。隠すという意味ではありません。聞かれそうなことを、聞かれる前に全部片づけておく。それだけです。

名義預金が心配な方へ

お子さんやお孫さん名義の口座があるご家庭は、一度確認しておく価値があります。当プラザでは、書面添付制度を活用した相続税申告をお引き受けしています。まずは相続税かんたん診断でご自宅の見込みをお確かめください。調査や申告についてのご質問はよくあるご質問にもまとめています。

たかさき相続税・贈与税相談プラザ

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公認会計士・税理士 長島祐太