「土地はあるんです。ただ、現金がない。二千万円なんて、どこから出せばいいんですか」
試算した納税額をお見せしたとき、そう言われました。財産の八割が土地と自宅で、預金は数百万円。群馬でよくある形です。
相続税は、原則として申告期限までに現金で一括納付します。分割払いの制度はありますが、自動的には使えません。申請が要ります。しかも申請できる期間が短い。
今日は、払えないときにどうするかを、実務の順番どおりに書きます。
目次
まず、期限までに何もしないのが一番まずい
延納も物納も、申請期限は相続税の申告期限と同じです。つまり十か月以内。この日を過ぎてから「やっぱり分割にしたい」は通りません。
何もせずに納期限を過ぎると、延滞税がかかります。令和八年分の延滞税は、納期限の翌日から二か月までが年二・八パーセント、それを過ぎると年九・一パーセントです。後者はかなり重い。
払えそうにないと気づいた時点で、選択肢を並べてください。順番はこうです。
一 手持ちの現金、生命保険金、他の相続人からの立て替えで払えないか
二 延納を申請する
三 不動産を売って払う
四 物納を申請する
物納が最後です。順番が逆だと思われるかもしれませんが、理由は後で書きます。
延納。いまは利子がかなり低い
使うための条件
延納は、相続税を年払いで分割納付する制度です。条件は四つ。
・相続税額が十万円を超えていること
・金銭で一度に納めることが困難な事由があること
・申告期限までに延納申請書と担保提供関係書類を出すこと
・担保を提供すること(延納税額百万円以下かつ延納期間三年以下なら不要)
「困難な事由」は、資産があるかどうかではなく、手元の現金で払えるかどうかで判断されます。土地を持っていても現金がなければ、困難と認められます。
担保は、相続した不動産をそのまま提供するのが一般的です。国債、上場株式、保証人も使えます。
利子税は本則より大幅に下がっている
延納には利子税がかかります。本則は年三・六パーセントから六・〇パーセント。この数字だけ見て諦める方がいますが、実際に適用されるのはこの率ではありません。
市中金利が低いときは、特例割合という軽減後の率が使われます。令和八年の延納特例基準割合は年一・三パーセントで、これをもとに計算すると次のようになります。
・不動産等の割合が七十五パーセント以上 不動産等に対応する分は最長二十年、年〇・六パーセント
・同上 動産等に対応する分は最長十年、年〇・九パーセント
・不動産等の割合が五十パーセント以上七十五パーセント未満 不動産等に対応する分は最長十五年、年〇・六パーセント
・不動産等の割合が五十パーセント未満 最長五年、年一・〇パーセント
年〇・六パーセントです。銀行から借りるより安いことが多い。ここを知らずに、金融機関で納税資金を借りてしまう方がいます。
ひとつ注意があります。この特例割合は毎年見直されます。分納期間が始まる年の割合が適用されるので、二十年の延納なら途中で率が変わります。申請の際は税務署で現在の率を確認してください。
延納の納付イメージ
冒頭のご相談者の数字で計算します。相続税二千万円、財産に占める不動産等の割合が八十パーセント。
納税額は不動産等に対応する分と動産等に対応する分に分かれます。不動産等分が千六百万円、動産等分が四百万円です。
不動産等分は二十年払いなので、元本が年八十万円。これに利子税が年〇・六パーセントで九万六千円。合わせて八十九万六千円。
動産等分は十年払いで、元本が年四十万円。利子税が年〇・九パーセントで三万六千円。合わせて四十三万六千円。
初年度の納付は、合計で百三十三万二千円になります。二千万円を一括で用意するのとは、まったく違う話になります。しかも元本が減るにつれて、利子部分は毎年下がっていきます。
途中でお金ができたら、繰上げ返済もできます。
物納は、思っているより通らない
物納は、相続した財産そのもので納税する制度です。土地で払う、というイメージが強いと思います。
ただ、これは最後の手段です。理由は三つあります。
ひとつめ。延納によっても金銭で納付することが困難な場合に限られます。つまり延納が使えるなら、物納は認められません。順序が決まっています。
ふたつめ。物納に充てられる財産には順位があります。第一順位が不動産、国債、上場株式など。第二順位が非上場株式。第三順位が動産です。上の順位の財産があるのに下の順位のものを出すことはできません。
みっつめ。これが実際に一番効きます。管理処分不適格財産は受け付けてもらえません。境界が確定していない土地、抵当権が付いている土地、係争中の土地、共有物件。売れない土地を押し付けられても国が困るので、当然といえば当然です。
さらに、法令に適合しない建物や、接道義務を満たさない土地、市街化調整区域内の土地などは物納劣後財産とされ、他に適当な財産がない場合しか使えません。
境界確定には測量が要ります。隣地所有者の立ち会いと同意が要ります。十か月の間にこれを終わらせるのは、かなり厳しい。物納を考えるなら、相続が起きた直後から測量に着手する必要があります。
もうひとつ。国が引き取る価額は、原則として相続税評価額です。市場で売れる価格のほうが高ければ、売って納税したほうが手取りが多くなります。逆に、評価額より安くしか売れない土地なら物納が有利です。ここは個別に比べてください。
売って払う場合に効いてくる期限
不動産を売って納税する場合、譲渡所得税がかかります。ここで使える制度が二つあります。
ひとつは取得費加算の特例です。相続税として納めた額のうち、売った土地に対応する部分を取得費に上乗せできる。譲渡益が圧縮されるので、所得税と住民税が下がります。
期限は、相続税の申告期限の翌日から三年以内。相続開始の日から数えると三年十か月です。この期間を過ぎると使えません。
もうひとつが、空き家の三千万円特別控除です。要件は細かいのですが、当てはまれば効果は大きい。空き家の三千万円控除に詳しく書きました。
なお、相続した不動産の所有期間は、亡くなった方が取得した時期を引き継ぎます。長く持っていた土地なら長期譲渡になり、税率は二十・三一五パーセントです。
実務では、延納してから売ることが多い
冒頭のご相談者は、結論として土地の一部を売ることにされました。ただ、十か月では売れませんでした。
郊外の土地です。買い手がすぐ現れるわけではない。急いで売ろうとすれば、足元を見られます。納期限が決まっていると知られた状態での交渉は、まず不利になります。
そこで、先に延納を申請しました。担保は相続した土地です。延納の許可を得てから、時間をかけて買い手を探し、納得できる価格で売れた時点で残りを繰上げ納付する。この形にしました。
延納には利子税がかかりますが、年〇・六パーセントです。急いで安く売る損失に比べれば、ずっと小さい。
この手順を取るには、申告期限までに延納の申請を済ませておく必要があります。売れるかどうか様子を見てから、では間に合いません。売却を考えている方こそ、延納の申請だけは先に出しておいてください。
相談は、期限の三か月前までに
延納の申請には、担保提供関係書類が要ります。不動産を担保にするなら、登記事項証明書、固定資産税評価証明書、抵当権設定に必要な書類。これを揃えるのに時間がかかります。
申告書の作成と並行してこの準備を進めるには、七か月目には方針が決まっていないと厳しい。十か月という申告期限は、納税方法を決める期限でもあります。
そして、そもそも誰がいくら納めるかは分割の仕方で決まります。納税資金を持っている相続人と、土地を取得する相続人が別々だと、払える人と払うべき人がずれます。遺産分割協議書を作る段階で、納税資金をどう手当てするかまで含めて話し合ってください。
払えないという相談を、私は何度も受けています。ただ、本当に打つ手がなかったケースはほとんどありません。困るのは、期限が過ぎてから相談に来られたときです。そのときはもう、延滞税を払いながら考えるしかなくなります。
















