相続時精算課税と暦年贈与、どちらを選ぶべきか|取り消せない選択の前に【群馬・高崎】

「相続時精算課税なら2,500万円まで税金がかからないと聞きました。使わない手はないですよね」

先週、こう聞かれました。この理解のまま制度を選ぶと、後で困ります。

2,500万円は非課税枠ではありません。税金を払う時期を相続まで先送りしているだけです。名前のとおり、相続のときに精算されます。

とはいえ、この制度が不利だという話でもありません。令和6年の改正で、暦年贈与より有利になる場面がはっきり出てきました。使いどころが変わったのです。

どちらを選ぶべきか。判断の順番を書きます。

2つの制度は、どちらか一方しか選べない

贈与税の計算方法は2つあります。

暦年課税。1年間にもらった財産の合計から110万円を引いて、残りに税率をかけます。何も手続きをしなければ、自動的にこちらです。

相続時精算課税。60歳以上の父母や祖父母から、18歳以上の子や孫への贈与について選べます。年齢はその年の1月1日で判定します。累計2,500万円までは贈与税がかからず、超えた部分に一律20%がかかります。

大事なのは、この選択が贈与する人ごとに決まり、一度選ぶと取り消せないことです。お父さまからの贈与について精算課税を選んだら、その後お父さまから受けるすべての贈与が精算課税になります。暦年の110万円は、お父さまからは二度と使えません。

お母さまからの贈与は別勘定です。父は精算課税、母は暦年、という組み合わせはできます。

手続きは、最初に贈与を受けた年の翌年、贈与税の申告期限までに「相続時精算課税選択届出書」を出します。出し忘れれば暦年課税のままです。

2,500万円は非課税ではなく、先送り

ここを誤解したまま選ぶ方が多いので、はっきり書きます。

精算課税で贈与した財産は、贈与した人が亡くなったとき、全額が相続財産に足し戻されます。2,500万円の特別控除を使って贈与税ゼロで渡した分も、例外なく戻ります。何年前の贈与であっても関係ありません。

暦年贈与の生前贈与加算には7年という期限がありますが、精算課税に期限はありません。20年前の贈与でも戻ります。

ですから、2,500万円を子に渡しても、相続税の総額はそのままです。減りません。減るのは、贈与税として先に払った分が相続税から差し引かれるという調整だけで、こちらは払いすぎていれば還付されます。

では何のための制度か。生前贈与加算の記事にも書きましたが、足し戻す金額は贈与したときの価額です。ここに使い道があります。

1,000万円の土地を精算課税で渡し、相続のときに2,000万円に値上がりしていたとします。足し戻されるのは1,000万円です。差の1,000万円は課税されません。税率30%の家なら300万円の効果です。

収益を生む財産も同じ理屈です。アパートを渡してしまえば、その後の家賃は子の収入になります。親の預金として積み上がらないので、相続財産が増えません。

逆に、値上がりも収益も見込めない現金をただ2,500万円渡すのは、税額の面では何もしていないのと同じです。

令和6年から、精算課税にも110万円の枠がついた

改正で変わったのはここです。

令和6年から、精算課税にも年110万円の基礎控除ができました。そしてこの110万円の部分は、相続財産に足し戻されません。2,500万円の特別控除とは扱いが違います。

整理します。

・年110万円まで → 贈与税なし、相続財産にも戻らない、申告も不要

・110万円を超え、累計2,500万円まで → 贈与税なし、相続財産に戻る、申告が必要

・累計2,500万円を超えた部分 → 一律20%の贈与税、相続財産に戻る

つまり、精算課税を選んだうえで毎年110万円ずつ渡していけば、7年ルールの影響を受けずに財産を移せます。暦年贈与でこれをやると、直近7年分は足し戻されます。

立場が入れ替わりました。改正前は「精算課税は節税にならない」で終わっていましたが、いまは違います。

注意点をひとつ。この110万円は、贈与を受ける人ごとに年間110万円です。お父さまとお母さまの両方から精算課税で贈与を受ける場合、合計で110万円になります。二重には使えません。

分かれ目は「残り時間」と「相手の人数」

選び方は、突き詰めると2つの要素で決まります。

ひとつめ、あと何年贈与を続けられるか。暦年贈与は7年を超えて生きていれば加算がゼロになります。裏返せば、7年に満たない見込みなら、渡した分がほぼ全部戻ってきます。ご高齢で、健康に不安があるなら、精算課税の110万円のほうが確実です。

ふたつめ、渡す相手が何人いるか。暦年贈与の110万円は、もらう人ごとの枠です。孫が3人いれば年330万円動かせます。しかも孫は相続で財産を取得しなければ加算の対象外なので、7年ルールも関係ありません。

この2つを掛け合わせると、こうなります。

・時間があり、渡す相手も多い → 暦年贈与。孫を含めて枠を広げる

・時間がなく、相手は子だけ → 精算課税。110万円が確実に外れる

・値上がりが見込める土地や自社株がある → 精算課税で早めに移す

・アパートなど収益物件を渡したい → 精算課税

なお、そもそも相続税がかからない家では、この議論自体が不要です。基礎控除の範囲に収まるなら、手元に置いておくほうが安心です。

時間が3年しかない家の数字

数字で見ます。

・財産の総額 1億5,000万円

・相続人は子2人、孫は3人

・贈与を続けられるのは3年と想定

何もしなければ、相続税の総額は1,840万円です。

暦年贈与で、子2人に毎年110万円を3年。渡した660万円は全額が足し戻されます。税額は1,840万円のまま。効果はゼロです。

精算課税で、子2人に毎年110万円を3年。同じ660万円ですが、基礎控除の部分なので足し戻されません。課税価格は1億4,340万円、税額は1,642万円。198万円下がりました。

暦年贈与で、孫3人に毎年110万円を3年。990万円を渡して、加算はゼロ。課税価格は1億4,010万円、税額は1,562万円。278万円下がります。

同じ3年でも、やり方で0円、198万円、278万円と分かれます。そして子と孫の両方に渡せば、効果は重なります。

お伝えしたいのは、精算課税か暦年かという二択ではないということです。父からは精算課税で子へ、母からは暦年で孫へ。こういう組み合わせが実際には一番効きます。

自宅の土地を精算課税で渡してはいけない

この制度でいちばん怖い失敗を書きます。

小規模宅地等の特例は、相続または遺贈によって取得した宅地に使う制度です。生前に贈与された土地は対象になりません。精算課税で渡した自宅の土地は、相続財産に足し戻されるにもかかわらず、8割減は使えません。

評価額が満額で戻ってくる、ということです。

実際にあった話です。数年前に精算課税で自宅の土地を長男に渡していたご家庭の申告をお手伝いしました。土地の評価は4,000万円ほど。同居していた長男が相続で取得していれば8割減が使えて、800万円で済んだ土地です。それが4,000万円のまま戻りました。差額の3,200万円に相続税がかかります。

渡したときは「早めに名義を移しておけば安心だ」というお気持ちだったそうです。名義を移すこと自体は悪くありません。ただ、税の面ではこの土地に限って逆でした。

それから、精算課税で取得した財産は物納に使えません。土地を渡したうえで納税資金が足りない、という状況は避けてください。

選ぶ前に確認する4つのこと

精算課税を選ぶ前に、この4つを確かめてください。

ひとつ。渡す財産は何か。値上がりや収益が見込めるものなら意味があります。現金だけなら、110万円の枠を使う目的に絞って考えます。

ふたつ。その土地に小規模宅地等の特例が使えるか。使えるなら、贈与ではなく相続で渡すほうが有利です。

みっつ。暦年贈与を何年続けられそうか。7年を超えて続けられる見込みがあるなら、暦年のほうが自由度は高いままです。

よっつ。他に渡したい相手はいないか。孫やお子さんの配偶者がいるなら、その枠を先に使い切るほうが効率的です。精算課税は子と孫にしか使えません。

この制度は、選び直しができません。届出書を出す前に、財産の総額を一度出してください。総額が分からないまま制度を選ぶのは、地図を見ずに道を決めるようなものです。

どちらを選ぶか迷っている方へ

たかさき相続税・贈与税相談プラザでは、財産の総額とご家族の構成をうかがったうえで、暦年贈与と相続時精算課税のどちらが有利かを試算しています。届出書は一度出すと取り消せません。出す前にご相談ください。

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公認会計士・税理士 長島祐太