「国税庁のサイトで路線価図を開いたんですが、うちの町が載っていないんです」
群馬の相続の相談では、この質問を何度も受けます。載っていないのは、探し方を間違えたからではありません。その町が倍率地域だからです。
私は高崎市江木町で相続税の申告を受けている公認会計士・税理士の長島祐太です。群馬県は、高崎や前橋の市街地こそ路線価が付いていますが、面積で見れば倍率地域のほうが広い。市によっては全域が倍率地域です。この記事では、倍率地域の土地をどう評価するか、そしてどこで金額に差がつくかを書きます。
この記事の内容
路線価図に載っていない町がある理由
相続税で土地を評価する方法は2つしかありません。路線価方式と倍率方式です。道路に価格が付いている地域は路線価方式、付いていない地域は倍率方式。どちらを使うかは、土地の所在地で決まります。選べません。
路線価は、宅地が密集して取引が多い地域に付けられます。裏を返すと、取引が少ない地域には付きません。群馬では、高崎駅周辺や前橋の中心部には細かく数字が入っていますが、そこから離れると路線価図が途切れます。市の全域に路線価図が存在しない市町村もあります。
群馬で言えば、高崎も前橋も市の全域に路線価が付いているわけではありません。旧町村を合併した区域には路線価図がなく、同じ市内に路線価地域と倍率地域が混在します。相続した土地が複数の地区にまたがっていれば、土地ごとに方式が変わります。
見分け方は簡単です。国税庁の財産評価基準書で県を選び、市区町村の一覧に自分の町が出てこなければ、そこは倍率地域です。探し方が悪いのではないので、路線価図を粘って探す必要はありません。
評価倍率表の引き方
倍率地域なら、見るのは路線価図ではなく評価倍率表です。手順はこうです。
1. 国税庁の財産評価基準書で、相続が起きた年分を選ぶ
2. 群馬県を選び、「評価倍率表(一般の土地等用)」を開く
3. 市区町村を選ぶと、町名・大字名が五十音順で並ぶ
4. 「固定資産税評価額に乗ずる倍率等」の欄を見る
年分の選び方に注意してください。使うのは相続が起きた年分です。令和7年に亡くなった方の申告なら、令和7年分の倍率表を見ます。最新年分をそのまま開くと、別の年の数字を拾います。
表には宅地・田・畑・山林・原野の列が並んでいます。宅地の欄に「1.1」とあれば、固定資産税評価額の1.1倍。田や畑の欄に「純 32」のような数字があれば、農地の分類と倍率です。「比準」「市比準」「周比準」と書かれていたら、倍率ではなく、近くの宅地の値段から計算しろという意味になります。
計算の起点は課税明細書
倍率方式の計算式は一行です。
固定資産税評価額 × 倍率 = 相続税評価額
固定資産税評価額が500万円で倍率が1.1なら、550万円。面積も路線価も要りません。だからこそ、固定資産税評価額を正しく拾えるかどうかがすべてになります。
起点は、毎年4月から5月に市町村から届く固定資産税の課税明細書です。ここで間違えやすいのが、明細書に載っている金額が1種類ではないことです。「価格」または「評価額」の欄を使います。「課税標準額」ではありません。住宅用地には固定資産税を軽くする特例があり、課税標準額は評価額の6分の1や3分の1に下がっていることがあります。この数字に倍率を掛けると、評価額が大幅に小さくなります。
もう一つ。使うのは相続が起きた年度の評価額です。固定資産税評価額は3年に一度の評価替えで動きます。手元にある最新の明細書が相続の翌年度のものなら、その数字ではありません。市町村の資産税課で、必要な年度の評価証明書を取ってください。
倍率地域では使えない補正がある
ここが、路線価地域と倍率地域でいちばん誤解されているところです。
路線価地域では、土地の形や道路との関係で評価を下げられます。奥行が長い、間口が狭い、不整形、道路より高い。こうした事情に補正率を掛けて減額します。倍率地域には、この補正がありません。
理由は、二重に引くことになるからです。固定資産税評価額は、市町村が土地を一筆ずつ見て決めています。傾斜、高低差、間口の狭さ、変形。こうした事情は、すでに固定資産税評価額の中で織り込まれています。そこへ相続税側でもう一度補正を掛ければ、同じ減額を2回することになります。
「うちの土地は道路から1m以上高いので、そのぶん下がりますよね」と聞かれることがあります。路線価地域ならその通りです。倍率地域では、その事情はすでに固定資産税評価額に入っているので、別に引くことはできません。逆に言えば、固定資産税評価額そのものが実態とずれているなら、直すべきはそちらです。
それでも差がつくのはこの4か所
補正が使えないなら、誰が計算しても同じ金額になりそうに思えます。実際は違います。倍率地域の申告で金額が動くのは、次の4か所です。
1. 現況と課税地目のずれ
相続税では、相続が起きた日の現況で地目を判定します。課税明細書は「畑」でも、何十年も前に埋めて庭や駐車場になっていれば、宅地として評価します。逆に、登記も課税も宅地なのに実際は耕作している土地もある。まずは現地を見て、明細書の地目と合っているかを確かめます。
2. 農地・山林の区分判定
農地は純農地・中間農地・市街地周辺農地・市街地農地の4つに分かれ、評価方法がまったく違います。純農地なら固定資産税評価額に倍率を掛けるだけですが、市街地農地は宅地の値段から計算します。桁が変わることもあります。山林も同じ構造です。倍率表のどの区分に当たるかで結論が決まります。
3. 宅地比準で引く造成費
市街地農地のように宅地の値段から計算する土地は、「宅地だったらいくらか」から「宅地にするための造成費」を引きます。造成費は国税庁が県ごとに単価を出しています。整地、伐採・抜根、地盤改良、土盛、土止。傾斜地なら傾斜度に応じた単価もあります。ここを引かずに出された評価額を、私は何度か見ています。
4. 地積規模の大きな宅地の評価
広い宅地は、戸建分譲を前提に道路を通す必要があるぶん、評価を下げられます。三大都市圏以外は1,000㎡以上が対象で、群馬もここに入ります。この規定は倍率地域でも使えます。広い土地を持つ家が多い地域ほど効きますが、路線価地域の話だと思われていて、使われていないことがあります。
倍率地域は「簡単」ではない
倍率方式は掛け算一回で終わるので、簡単だと言われます。宅地1筆だけならその通りです。難しくなるのは、家の周りに畑や山林が何筆もある場合です。群馬の倍率地域の相続は、たいていこの形になります。
「うちは田舎だから大した金額にならない」という見立ても、当たるとは限りません。畑が市街地農地に当たれば、宅地並みの値段から計算します。基礎控除に届かないと思っていた家が、農地の区分判定ひとつで申告の対象になることがあります。
筆ごとに現況を確かめ、地目を判定し、農地なら区分を決め、宅地比準なら造成費を引く。この作業をしたかどうかで、同じ土地の評価額が変わります。掛け算が簡単なことと、申告が簡単なことは別です。
申告が必要かどうかの目安は相続税はいくらからかかるかの記事に、自分で申告できるかの判断は自分で相続税申告ができるかの記事に書きました。税理士の選び方は相続税に強い税理士の見分け方の記事にまとめています。
課税明細書を1枚お持ちください。倍率表と突き合わせます
固定資産税の課税明細書があれば、筆ごとの地目と評価額を倍率表に当てて、その場で概算を出します。畑や山林が何筆もある土地ほど、先に全体像を見ておく価値があります。群馬の倍率地域の申告を、公認会計士・税理士 長島祐太が担当します。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ(ミノラス会計事務所内)
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