「税務署からこれが届いたんですが、うちは何か疑われているんでしょうか」
封筒を持って来られた方に、私はいつも同じことを言います。疑われているわけではありません。ただ、残り時間はもうあまりありません、と。
私は高崎市江木町で相続税の申告を受けている公認会計士・税理士の長島祐太です。この記事では、税務署から届く2種類の文書の違い、なぜこの時期に届くのか、返さなければいけないのか、そして届いてから何をすべきかを書きます。
この記事の内容
届く文書は2種類ある
まず、封筒の表と中身を見てください。税務署から相続について届く文書は、大きく2種類あります。
・相続税の申告等についてのご案内
・相続税についてのお尋ね(相続税についてのお知らせ)
どちらにも「相続税の申告要否検討表」という用紙が入っています。財産の内容を書いて、申告が必要かどうかを判定するシートです。「相続税のあらまし」という制度説明のリーフレットも入っていますが、これは読み物で、返すものではありません。
2通の差が出るのは、申告書の用紙が同封されているかどうかです。申告書一式が入っていたら、税務署は「この家は申告が必要になる可能性が高い」と見ています。検討表だけなら、要否の確認段階です。封を開けたとき、まずここを確かめてください。
どちらにせよ、この文書は「脱税を疑っています」という通知ではありません。財産の内容を確認して、必要なら申告してください、という依頼です。封筒を見て血の気が引いたという方が多いのですが、まず落ち着いて構いません。落ち着いたうえで、急ぐ必要があります。
なお、相続人全員に届くとは限りません。代表と見られる方に1通だけ届くことがあります。自分に届いていないから関係ない、とはなりません。
なぜ相続から6〜8か月後に届くのか
この文書が届くのは、亡くなってから6か月から8か月ほど経った頃です。四十九日も一周忌前の法要も終わり、ようやく落ち着いた時期に来ます。
問題は、相続税の申告期限が相続の開始を知った日の翌日から10か月だということです。6か月後に届けば残り4か月、8か月後なら残り2か月しかありません。この2か月で、財産をすべて洗い出し、土地を評価し、遺産分割をまとめ、申告書を作り、納税まで終える必要があります。
この時期に設定されているのは偶然ではないと、私は考えています。期限前に気づかせて、自主的に申告させる。税務署の側から見れば合理的な時期です。ただ、受け取った側にとっては、いちばん時間のない知らせになります。
だから、届いた封筒を「後で見よう」と置いてしまうのが最も損です。残り時間が2か月を切ると、遺産分割がまとまらず、配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も使えないまま期限を迎える、という事態が現実に起きます。
なぜうちに届いたのか
「どこから死亡を知ったのか」と聞かれます。答えは市区町村です。死亡届を受け取った市区町村は、その情報を税務署に通知することになっています。高崎市に死亡届を出せば、高崎税務署は把握します。
そのうえで、税務署は手元の情報から財産の規模を推測します。持っている情報は、思っているより多い。
・不動産の登記情報(どこにどれだけ土地を持っていたか)
・固定資産税の課税情報
・生命保険金や退職手当金の支払調書(保険会社や勤務先から税務署へ提出されます)
・過去の所得税の確定申告(不動産所得や配当所得があれば、資産の存在が分かります)
・一定額以上の方が提出する財産債務調書
これらを突き合わせて「基礎控除を超えそうだ」と見た家に、文書が送られます。逆に言えば、届いたということは、税務署の手元の情報だけで基礎控除に届きそうだと判断されたということです。「うちは大した財産はない」という感覚と、実際の評価額は、しばしばずれます。
返送する義務はあるのか
申告要否検討表の返送は、法律上の義務ではありません。出さなくても罰則はありません。これは事実です。
そのうえで私は、計算した結果が基礎控除以下なら返送することを勧めています。理由は単純で、返さなければ税務署には「申告も回答もない家」として残るからです。相続税の無申告は、税務署が力を入れて拾いに行く領域です。何も返さないまま放置すれば、後日あらためて接触が来る可能性が高くなります。返しておけば、そこで一区切りが付きます。
ただし、書き方には注意してください。検討表は自己申告です。事実と違う内容を書いて納税を免れ、後の調査で発覚した場合は、重加算税の対象になり得ます。加算税が最も重くなるのがこのパターンです。分からない財産があるなら、空欄のまま出すより、先に調べたほうがいい。
計算の結果、基礎控除を超えるなら、検討表の返送ではなく申告書の提出に切り替えます。検討表を出したことで申告が免除されるわけではありません。
届いてから最初にやること
順番があります。財産の総額が基礎控除を超えるかどうかを、粗くていいので先に出します。基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。相続人が子2人なら4,200万円。
1. 土地の概算を出す
金額がいちばん大きく、いちばん間違えやすいのが土地です。路線価地域なら路線価×面積、倍率地域なら固定資産税評価額×倍率。固定資産税の課税明細書が手元にあれば、その日のうちに概算が出ます。
2. 預金は残高だけでなく過去の動きも見る
亡くなった日の残高に加えて、生前の贈与と、子や孫の名義になっている口座を確認します。ここは税務署が最も見る箇所です。相続開始前の一定期間内の贈与は、相続財産に足し戻します。
3. 生命保険と退職金を足す
受取人が決まっている死亡保険金も、相続税では課税対象です。非課税枠は「500万円×法定相続人の数」。この枠を超えた分が財産に加わります。
ここまでで出した合計が基礎控除を大きく下回るなら、検討表を書いて返送すれば終わりです。大きく超えるなら申告に進みます。判断が割れるのは、基礎控除の前後1,000万円くらいに収まったときです。この帯に入ったら、土地の評価を詰める価値があります。
4. 超えそうなら、特例を使える形に分割を組む
配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も、期限内に遺産分割がまとまっていることが前提です。残り2か月なら、財産の洗い出しと並行して分割の話を始めないと間に合いません。
期限を過ぎてから届いた場合
10か月の期限を過ぎた後に文書が届くこともあります。この場合は意味が変わります。申告があるはずの家から申告が出ていない、という状態で接触が来ているからです。
それでも、まだ差はあります。調査の通知が来る前に自分から期限後申告を出すのと、指摘されてから出すのとでは、加算税の率が違います。放っておくほど不利になる一方で、動けば軽くなる余地がある。過ぎてしまった方こそ、早く手を付ける価値があります。
申告が要るかどうかの目安は相続税はいくらからかかるかの記事、自宅の評価を下げる特例は小規模宅地等の特例の記事、頼む税理士の選び方は相続税に強い税理士の見分け方の記事に書いています。
封筒が届いた時点で、残り時間は決まっています。中身を読む前でも構いません。届いた日付だけ確認して、相続開始から何か月経っているかを数えてください。そこが出発点です。
届いた封筒を、開けたまま持ってきてください
税務署からの文書と固定資産税の課税明細書があれば、申告が要るかどうか、残り時間で間に合うかを、その場で判断します。期限が迫っている方、すでに過ぎている方も、まず現状を整理するところからお受けします。公認会計士・税理士 長島祐太が担当します。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ(ミノラス会計事務所内)
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