「父が亡くなったのは8年前です。土地の名義はそのままですが、特に困っていません」
この方には、期限が迫っていることをお伝えしました。2027年3月31日です。
2024年4月に相続登記が義務化されました。それ以前に起きた相続も対象で、経過措置として2027年3月31日までに登記を済ませることとされています。この記事を書いている時点で、残りは7か月あまりです。
怠れば10万円以下の過料の対象になります。金額としては大きくないかもしれません。ただ、放置の本当の代償は過料ではありません。
売れない、貸せない、担保に入れられない。そして時間が経つほど、手続きの相手が増えていきます。
3年以内。過去の相続は2027年3月31日まで
義務の内容はこうです。
相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に、相続登記を申請しなければなりません。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象になります。
起算点が「相続が発生した日」ではなく「取得を知った日」である点は、押さえておいてください。疎遠だった親族の相続人になっていたことを後から知った、という場合は、知った時点から数えます。
そして重要なのが、この義務が過去にさかのぼることです。
・2024年4月1日以降の相続 → 取得を知った日から3年以内
・2024年3月31日以前の相続 → 2027年3月31日まで
冒頭の方のように8年前の相続でも、30年前の相続でも、名義が変わっていなければ対象です。祖父の代から動いていない土地をお持ちの方は、そこも含まれます。
過料は自動的に科されるものではありません。法務局から催告を受け、それでも応じない場合に裁判所へ通知される流れです。相続人が極めて多い、重病である、といった事情があれば正当な理由として考慮されます。とはいえ、「知らなかった」「面倒だった」は正当な理由になりません。
分割がまとまらないときの逃げ道
よくいただく質問があります。「兄弟で話がついていないのに、どうやって登記するのか」というものです。
そのために用意されたのが、相続人申告登記という制度です。
これは「自分がこの不動産の相続人のひとりです」と法務局に申し出る手続きです。誰が最終的に取得するかは決まっていなくても構いません。申し出た人については、これで3年以内の義務を果たしたことになります。
・単独で申し出ができる(他の相続人の協力が不要)
・登録免許税がかからない
・戸籍で相続人であることを示せば足りる
・遺産分割協議書は不要
ただし、これは義務を先送りする手続きにすぎません。所有権が移るわけではないので、売却も担保設定もできません。分割がまとまったら、その日から3年以内に本来の相続登記をする必要があります。
分割がまとまらない理由の多くは、不動産の分け方です。代償分割と換価分割の使い分けについてはこちらの記事にまとめました。相続人申告登記で時間を稼いでいる間に、そちらを進めるのが本筋だと思います。
住所変更の登記も義務になった
見落とされがちですが、2026年4月から、所有者の住所や氏名が変わった場合の登記も義務になりました。
変更があった日から2年以内。怠ると5万円以下の過料です。
相続登記と違って、こちらは相続とは無関係に全員が対象です。引っ越した、結婚して姓が変わった。それだけで義務が生じます。登記簿に古い住所が残っている方は、そのままにできません。
この制度も過去にさかのぼる形で、施行前に住所が変わっていた方は2028年3月31日までが期限とされています。
なお、あらかじめ法務局に申し出ておけば、住民基本台帳の情報をもとに職権で変更してもらえる仕組みも用意されています。手続きを繰り返したくない方は、こちらを検討する価値があります。
過料より重い、放置の代償
私が本当に申し上げたいのは、過料の話ではありません。
名義が変わっていない不動産は、動かせません。
・売却できない(買主に所有権を移せない)
・担保に入れられない(融資が受けられない)
・建て替え、大規模な修繕の手続きが進まない
・自治体の補助金や助成の対象外になることがある
そして最大の問題は、時間とともに相続人が増えることです。
父の相続を放置している間に、相続人である兄が亡くなる。すると兄の配偶者と子が新たに相続人に加わります。その次の代で、また増える。10年、20年と放置すれば、会ったこともない親族の実印と印鑑証明が必要になります。
高崎市内でご相談を受けたケースです。売却の話が具体的に進んだ段階で、土地の一部が祖父名義のままであることが判明しました。祖父の相続人をたどると、県外に散らばった親族が何人も出てきました。戸籍を集め、連絡を取り、全員の同意を取り付けるまでに1年以上かかりました。買主は待ってくれず、その話は流れています。
「困っていない」というのは、動かそうとしていないから困っていないだけです。売る必要が生じたときには、もう手遅れになっていることがあります。空き家の売却には3年半という期限もあるので、登記で1年失うと、そちらにも間に合わなくなります。
費用はいくらかかるか
費用が心配で動けない、という方もいらっしゃいます。目安を書いておきます。
まず登録免許税です。固定資産税評価額の0.4%。評価額2,000万円の不動産なら8万円です。
土地の評価額が100万円以下の場合、相続登記の登録免許税は免税とされています。山林や農地、私道のような細かい土地が複数ある場合、この免税が効くことがあります。
次に司法書士への報酬です。相続人の数や物件数によりますが、おおむね5万円から15万円程度が目安になります。相続人が多い、戸籍の収集が広範囲に及ぶといった場合は、さらにかかります。
加えて、戸籍謄本や住民票の取得費用が数千円から1万円程度です。
合計すると、標準的なケースで15万円から25万円といったところでしょうか。放置して相続人が増えた場合の費用と比べれば、はるかに安く済みます。
まず何から手を付けるか
やることは3つです。
ひとつ目は、名義の確認です。法務局で登記事項証明書を取れば、現在の名義人が分かります。オンラインでも請求できます。市役所で名寄帳を取れば、その市町村内にある不動産が一覧で出てくるので、そもそも何を持っているかが分からない場合はこちらが先です。
ふたつ目は、期限の確認です。相続がいつだったか。2024年3月31日以前なら、期限は2027年3月31日で共通です。
みっつ目は、分割の状況の確認です。すでに誰が取得するか決まっているなら、そのまま登記に進めます。決まっていないなら、相続人申告登記でいったん義務を果たしつつ、分割協議を並行して進めます。
相続税の申告が必要な方は、こちらにも10か月という別の期限があります。申告期限についてはこちらの記事で書いていますが、登記と税の期限は別物なので、両方を並べて逆算する必要があります。
2027年3月31日まで、残り7か月あまりです。戸籍を集めるだけで数か月かかることもあります。心当たりのある方は、年内に着手されることをお勧めします。
名義がそのままの不動産をお持ちの方へ
たかさき相続税・贈与税相談プラザでは、財産の洗い出しから相続税の要否判定までを承っています。登記手続きそのものは連携する司法書士がお手伝いしますので、まとめてご相談いただけます。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ
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公認会計士・税理士 長島祐太
















