「とりあえず兄弟の共有にしておこうと思うんです。仲は悪くないので」
この言葉を、私は何度も聞いています。そして毎回、同じことを申し上げます。共有だけはやめてください、と。
仲が悪いから揉めるのではありません。分けられないものを分けようとするから揉めます。現金なら1円単位で割れますが、家は割れない。ここに相続の難しさが集中しています。
高崎市周辺で相続のご相談を受けていると、遺産の6割から7割が不動産という方が珍しくありません。預金で調整しようにも、預金のほうが足りない。そういう構図です。
分け方には4つの方法があります。どれを選ぶかで、納める税額も、その後の家族関係も変わります。順に見ていきます。
目次
分け方は4つある
遺産の分け方は、次の4つに整理できます。
・現物分割:財産ごとに、そのままの形で分ける
・代償分割:ひとりが不動産を取得し、他の相続人に現金を払う
・換価分割:売却して、代金を分ける
・共有分割:ひとつの不動産を、持分で共有する
現物分割が使えるなら、それが一番簡単です。長男が自宅、次男が預金、というように。ただしこれは、それぞれの財産の価値がたまたま釣り合っている場合に限られます。
現実には釣り合いません。自宅が6,000万円で預金が2,000万円、というような偏りが普通です。そこで代償分割か換価分割を検討することになります。
共有分割を勧めない理由
先に共有の話をします。手続きが簡単で、その場は平等に見えるので、選ばれやすいからです。
問題は、共有にすると単独では何もできなくなることです。
・売却するには、共有者全員の同意が必要
・建て替え、大規模なリフォームも全員の同意
・賃貸に出すには持分の過半数の同意
・固定資産税は共有者全員の連帯債務
兄弟2人の間なら、まだ話し合いはできます。こわいのは次の代です。
兄弟2人の共有が、それぞれに子が2人いれば、次の相続で4人の共有になります。さらにその次で8人。いとこ同士、顔も知らない相手と、実家の処分を協議することになります。
私が実際に見た中で、いちばん厄介だったのは相続人が11人に膨らんでいたケースです。もとは祖父の代の共有でした。全員の署名を集めるだけで1年近くかかりました。
共有は問題の解決ではなく、先送りです。今日決められないことを、より条件の悪い将来に投げているだけだと考えてください。
代償分割|家を残したいなら
実家を手放したくない。誰かが住み続ける。この場合は代償分割になります。
具体例で見ます。父が亡くなり、相続人は長男と次男の2人。母はすでに他界しています。
・自宅(土地・建物)の相続税評価額 6,000万円
・預貯金 2,000万円
遺産の合計は8,000万円。法定相続分どおりなら、ひとり4,000万円です。
長男が自宅に住み続けるとして、長男が自宅6,000万円、次男が預金2,000万円を取得すると、長男が2,000万円多く、次男が2,000万円少ない。そこで長男が次男に2,000万円を支払います。これで4,000万円ずつになります。
この方法の利点は、自宅を残したまま公平に分けられることです。小規模宅地等の特例も、住み続ける長男が取得することで適用できます。売ってしまうと、この特例の要件を満たせなくなる場合があります。
難しいのは資金です。長男に2,000万円の現金がなければ成立しません。
ここで生きるのが生命保険です。受取人を長男にした保険に入っておけば、その保険金は長男固有の財産として受け取れます。遺産分割の対象にならないので、そのまま代償金の原資にできます。死亡保険金には500万円×法定相続人の数という非課税枠もあります。相続人が2人なら1,000万円までが非課税です。
代償金を分割払いにする方法もありますが、私はあまり勧めません。10年払いにしたものの、3年目で止まった。そういう相談を受けたことがあります。支払いが滞れば、結局は感情の問題に戻ります。
代償金でいちばん揉めるのは「いくら」か
代償分割で実際に紛糾するのは、支払う額の計算根拠です。
先ほどの例で、自宅の相続税評価額は6,000万円でした。ところが不動産会社に査定させたら、売却できる価格は8,000万円だったとします。
次男はこう言います。「時価で計算すべきだ」。時価8,000万円+預金2,000万円=1億円。半分は5,000万円。次男は預金2,000万円しか受け取らないので、代償金は3,000万円になるはずだ、と。
長男はこう言います。「相続税評価額で計算すべきだ」。それなら代償金は2,000万円で足りる。
差額は1,000万円です。ここで止まります。
法律的には、遺産分割で用いるのは時価が原則です。相続税評価額は税金を計算するための金額であって、財産の実際の価値とは別物だからです。土地の相続税評価に使う路線価は、公示価格の8割程度を目安に設定されています。実際に売れる価格とは、はじめから開きがあるということです。
とはいえ、相続人全員が納得すればどの基準でも構いません。実務では、時価と相続税評価額の間で折り合いをつけることも多いです。
大事なのは、先に基準を決めることです。金額から入ると交渉になり、感情が乗ります。「不動産会社2社の査定の平均で決める」と最初に合意しておけば、出てきた数字はただの結果になります。
換価分割|売って分けるときの落とし穴
誰も住まない。代償金も用意できない。この場合は売却して現金で分けます。換価分割です。
1円単位まで公平に分けられるので、分け方としては一番すっきりします。ただし見落とされがちな負担があります。譲渡所得税です。
相続税を納めた後、売却したときにもう一段、所得税と住民税がかかります。
先ほどの自宅が6,000万円で売れたとします。親がいつ買ったか分からず、購入時の契約書も残っていない。この場合、取得費は売却価格の5%とみなして計算することが認められています。6,000万円×5%=300万円です。仲介手数料などの譲渡費用を200万円とすると、
6,000万円-300万円-200万円=5,500万円
これが譲渡所得です。親の所有期間を引き継ぐので長期譲渡となり、税率は20.315%。5,500万円×20.315%=約1,117万円。兄弟で分ければ、ひとりあたり約558万円の負担です。
6,000万円で売れたから3,000万円ずつ、と考えていると、翌年の確定申告で慌てることになります。手取りは2,400万円台です。
この負担を軽くする制度はあります。相続した空き家を売る場合の3,000万円特別控除や、納めた相続税の一部を取得費に加算できる特例です。要件が細かいので、売る前に確認しておいてください。
もうひとつ実務上の注意です。換価分割では、いったん誰かの名義に相続登記してから売却するのが一般的です。このとき、遺産分割協議書に「換価して分配する」と明記しておかないと、代表者から他の相続人への贈与とみなされる危険があります。書き方ひとつで贈与税がかかるということです。
10か月以内に決まらないと、特例が消える
分け方で悩んでいる方に、いちばん強く申し上げたいのがここです。
相続税の申告期限は10か月。この時点で分割が決まっていないと、次の2つが使えません。
・小規模宅地等の特例(自宅の土地が最大80%減)
・配偶者の税額軽減(1億6,000万円まで非課税)
どちらも相続税を大きく下げる制度です。使えなければ、本来払わなくてよかった税金を、いったん現金で納めることになります。
救済はあります。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えておけば、3年以内に分割がまとまった時点で、更正の請求という手続きで還付を受けられます。
ただしこれは、いったん高い税額を納めた上での話です。手元の現金が先に出ていきます。10か月という期限の重みについてはこちらの記事で詳しく書きました。
分け方が決まらない理由の多くは、感情ではなく情報不足です。不動産がいくらなのか、税額がいくらになるのか、誰も分からないまま話し合っている。数字が出た瞬間に決まることは、よくあります。
生前にできる、いちばん確実な準備
ここまでは、相続が起きた後の話でした。生前であれば、選べる手はもっと広いです。
遺言書を書いておけば、そもそも分割協議が要りません。誰が何を取得するかが決まっているので、10か月の期限に追われることもありません。付言事項として、なぜその分け方にしたのかを書き添えておくと、残された側の受け止めが変わります。
代償金を払う側が決まっているなら、その人を受取人にした生命保険に入っておく。これで資金の問題が消えます。
不動産が複数あるなら、生前に整理しておく方法もあります。使っていない土地を売っておけば、その分は現金になり、分けやすくなります。
どれも、相続が起きてからではできません。
私がご相談でよく申し上げるのは、まず全体の数字を出しましょう、ということです。不動産がいくらで、預金がいくらで、相続税がいくらかかるのか。これが分かれば、どの分け方が現実的かは自然に見えてきます。分け方の議論は、そのあとで十分です。
分け方に迷っている方へ
たかさき相続税・贈与税相談プラザでは、財産の全体像の把握から、分割方法ごとの税額シミュレーションまでを承っています。代償分割と換価分割で手残りがいくら変わるかは、計算すれば必ず答えが出ます。感情の話に入る前に、数字を揃えることをお勧めしています。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ
TEL 027-335-9606(平日9:00〜17:30)
群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル2階
公認会計士・税理士 長島祐太
















