「親にどれくらい財産があるのか、実は知らないんです」
相続税がかかるかどうかを心配してご相談にみえた方の、半分以上がこう言われます。心配はしている。でも聞けない。聞いたら財産を当てにしていると思われそうで、切り出せないまま何年も経っている。
この悩みには、はっきりした解決の方向があります。金額を聞こうとするのをやめることです。
この記事では、なぜ金額を聞く必要がないのかと、生前に確認しておくべき財産の一覧、そして親御さんへの切り出し方を書きます。
目次
聞くべきは「いくら」ではなく「どこに何があるか」
「いくら持っているの」と聞かれれば、誰でも身構えます。財産の額は、その人の人生の評価そのものだからです。答えたくないのが自然です。
ところが相続の準備に必要なのは、額ではありません。どの金融機関に口座があるか、どこに不動産があるか、どの保険会社と契約しているか。この「所在」さえ分かっていれば、額は後から確認できます。
むしろ額のほうは、聞いたところで正確ではないことが多い。ご本人も自宅の相続税評価額は知りませんし、上場株式は日々動きます。所在さえ押さえておけば、相続が起きたときに1週間で全体像が出ます。押さえていなければ、そこから半年かかります。
生前に確認しておきたい財産リスト
1.不動産
自宅だけとは限りません。郊外の畑、山林、駐車場、共有になっている私道、先代の名義のまま放置されている土地。高崎の郊外ではよくある形です。
確認の起点になるのは、毎年4月から5月ごろに届く固定資産税の納税通知書です。市町村ごとに届くので、複数の市町村に土地があれば通知書も複数あります。市役所で名寄帳を取れば、その市内の不動産が一覧になります。
2.預貯金
残高は聞かなくて構いません。金融機関名と支店名だけで十分です。地元の銀行や信用金庫、農協のほか、勤務先の関係で作った都市銀行の口座、ネット銀行が抜けやすいところです。ネット銀行は通帳も郵便物もないので、ご家族が気づく手がかりがほとんどありません。
3.有価証券
証券会社名が分かれば足ります。株式は電子化されているので、昔の株券が家から出てくることはありません。逆に言えば、証券会社が分からないと存在に気づけません。単元未満株や、退職した会社の持株会が残っていることもあります。
4.生命保険・共済
保険証券の保管場所を聞いておいてください。死亡保険金には500万円×法定相続人の数の非課税枠がありますが、これを超える部分は相続税の対象です。群馬では農協の共済に入っている方が多く、こちらも同じ扱いになります。
5.借入と保証
住宅ローン、事業用の借入、そして他人の借入に対する連帯保証。借金は相続財産から差し引けますが、把握していなければ差し引けません。逆に、知らないまま相続してしまうと返済義務だけが残ります。
連帯保証は書類が手元にないことも多く、後から出てくる典型です。事業をされていた親御さんの場合は、必ず確認してください。
6.そのほか見落としやすいもの
・銀行の貸金庫(中身より、契約している事実が重要です)
・金地金、骨董、ゴルフ会員権
・暗号資産、ネット証券の外貨建て資産
・親族や知人への貸付金
・子や孫の名義になっているが、実際は親御さんが管理している預金
最後のものは、税務調査でもっとも指摘される項目です。通帳も印鑑も親が持っていれば、名義が誰であっても親の財産として扱われます。詳しくは名義預金とは|家族名義の預金が相続財産になる理由をご覧ください。
手がかりは年に何度か家に届いている
聞きにくいなら、書類から入る方法があります。財産の所在を示す郵便物は、定期的に届いています。
・固定資産税の納税通知書(毎年4〜5月ごろ、市町村から)
・生命保険会社からの契約状況のお知らせ(年1回)
・証券会社の取引残高報告書(年数回)
・確定申告書の控え(不動産所得があれば物件が載っています)
・借入の返済予定表、金融機関からの残高証明
実家に帰ったときに、これらがどこにしまってあるかだけでも確認しておく。それだけで、いざというときの負担がまったく変わります。
亡くなってから探すと、何が起きるか
相続税の申告と納税の期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。この10か月には、葬儀、四十九日、遺品整理、遺産分割の話し合いがすべて含まれます。
預貯金は金融機関ごとに照会するしかありません。心当たりのある銀行に一つずつ問い合わせ、戸籍を提出し、残高証明を取る。これを何行分も繰り返します。
生命保険については、生命保険協会の生命保険契約照会制度があります。加盟している生命保険会社に一括で契約の有無を確認してくれる仕組みで、利用料は令和8年4月以降、調査対象者1名につきWEB申請で6,000円、書面申請で7,000円です。回答までは2週間程度かかります。ただし農協の共済など、協会の会員会社でないものは対象外です。
こうした調査を、悲しみの中で、期限に追われながら進めることになります。申告期限については相続税の申告期限は10か月|間に合わないとどうなるかに書きました。
親への切り出し方
実際にご相談者にお伝えしている言い方を挙げておきます。
ひとつは、目的を「相続税」ではなく「手続き」に置くことです。「相続税がいくらになるか調べたい」ではなく、「もしものときに手続きで困らないように、どこに何があるかだけ教えておいてほしい」。財産を当てにする話ではなく、親御さん自身の希望どおりに手続きが進むようにする話になります。
もうひとつは、自分の側から始めることです。自分の保険や口座をまとめたメモを作って見せる。エンディングノートを2冊買って、片方を渡す。「一緒にやろう」という形にすると、抵抗はかなり下がります。
最後にひとつ、注意していただきたいことがあります。ごきょうだいがいる場合は、ひとりで動かないでください。良かれと思って親御さんの通帳を預かったり、口座を整理したりすると、後で「勝手に触った」という話になります。相続でもめる原因の多くは、金額そのものより、こうした手続きの進め方への不信です。
分かったら、まず概算を出す
財産の所在がつかめたら、次は相続税がかかる規模なのかを確かめる段階です。基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数。この線を超えるかどうかで、やるべきことが変わります。
考え方は相続税はいくらからかかるのか|「3,600万円」の本当の意味にまとめてあります。おおよその見当をつけたい方は、質問に答えるだけで判定できるかんたん相続税診断をお使いください。
親御さんがお元気なうちにここまで進めておけば、生前贈与や生命保険の使い方、不動産の分け方など、選べる手が残ります。相続が起きてからでは、できることは大きく減ります。
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