「私たちがいなくなった後、この子はどうなるんでしょうか」
相続の相談というより、その先の心配です。財産をいくら残せるかより、残した財産をこの子が使えるのか。誰が管理するのか。そちらのほうが大きい。
相続税には障害のある方のための控除があり、税額が大きく下がります。ただ、税金だけ解決しても意味がありません。渡し方と、その後の管理まで含めて考える必要があります。
使える制度と、決めておくべきことを書きます。
目次
障害者控除は、税額から直接引く
相続税の障害者控除は、計算した相続税額から直接引きます。財産の評価を下げる特例ではなく、税額そのものを削る控除です。効き方が違います。
金額は年齢で決まります。
一般障害者=(85歳-相続開始時の年齢)×10万円
特別障害者=(85歳-相続開始時の年齢)×20万円
35歳の特別障害者の方なら、(85-35)×20万円で1,000万円です。一般障害者なら500万円。20歳なら1,300万円になります。若いほど大きくなります。
条件は、相続開始時に85歳未満であること、法定相続人であること、日本国内に住所があることです。85歳になるまでの年数に1年未満の端数があるときは、切り上げて1年として数えます。35歳3か月なら49年9か月ではなく、50年で計算します。
障害者手帳を持っていない場合でも、市区町村長などから障害者に準ずるという認定を受けていれば対象になることがあります。要介護認定を受けている高齢の相続人が該当するケースもありますので、手帳がないから無理だと決めつけないでください。
なお、この控除は一度使うと、次の相続では使った分を差し引いた残りしか使えません。父の相続で400万円使ったら、母の相続では残りの600万円までです。
引ききれない分は、きょうだいの税額から引ける
ここが実務でいちばん効きます。
控除額が1,000万円でも、その方自身の相続税額が300万円しかなければ、700万円が余ります。この余りは、扶養義務者の相続税額から引けます。扶養義務者とは、配偶者、直系血族、兄弟姉妹などです。
つまり、障害のある子に多く相続させなくても、控除の効果は家族全体で使えます。きょうだいの税額が700万円下がるわけです。
この点を知らずに、「控除を使い切るために、この子に多く相続させよう」と考えてしまう家があります。財産を多く持たせることが、その子にとって最善とは限りません。管理できない財産を抱えることになるからです。税額の話と、渡し方の話は分けて考えてください。
生前に渡すなら、特定贈与信託
生きているうちに財産を移しておく方法として、特定贈与信託があります。信託銀行に金銭などを預け、その子を受益者にして、生活費や医療費として定期的に交付してもらう仕組みです。
贈与税が非課税になる限度額は、特別障害者で6,000万円、それ以外の特定障害者で3,000万円です。
この制度の要点は3つあります。
信託は、その子が亡くなる日まで続く。途中で終われない
親が亡くなった後も、信託銀行が管理と交付を続ける
非課税で贈与した分は、生前贈与加算の対象にならない
3つ目は見落とされがちです。亡くなる前の一定期間内の贈与は相続財産に足し戻されますが、この信託で非課税とされた分は足し戻されません。
使うには、信託契約を結ぶ日までに「障害者非課税信託申告書」を、信託銀行を経由して税務署へ提出する必要があります。後から出すことはできません。
一方で、注意すべき点もあります。信託できる財産は金銭、有価証券、不動産など法令で限定されていますし、交付されたお金は生活費や医療費以外には使えません。いったん始めると途中でやめられないため、まとまった額を入れすぎると、家の修繕費のようなまとまった支出に対応できないことがあります。全財産を入れるのではなく、生活費の土台として設計するのが実際的です。
心身障害者扶養共済という選択肢
地方自治体が運営している制度です。親が生きているあいだ掛金を払い、親が亡くなった後、その子に年金が支給されます。1口あたり月額2万円、2口まで加入できますので、最大で月4万円、年間48万円です。
この年金には所得税がかかりませんし、相続税の対象にもなりません。掛金は所得控除にもなります。まとまった財産を残すのとは別に、毎月の生活費の土台を作る方法として検討する価値があります。
加入には年齢や障害の程度の要件があり、自治体の窓口で手続きします。群馬県にも制度があります。詳しい条件は市役所の障害福祉の窓口で確認してください。
お金より、誰が管理するかを決める
財産を残せても、その子が自分で契約したり、預金を動かしたりできない場合があります。実はここがいちばん大きな問題です。
判断能力が十分でない方が相続人にいる場合、遺産分割協議には成年後見人が必要です。後見人がいないまま進めた協議は無効になります。家庭裁判所に申し立てて選任してもらうのに数か月かかりますので、相続が起きてから動くと、申告期限の10か月が一気に詰まります。
後見人が付けば、その子の財産は後見人の管理下に置かれ、家庭裁判所の監督を受けます。安全ではありますが、柔軟には使えません。親族が後見人になれるとは限らず、専門職が選任されれば報酬も継続的にかかります。
父親が亡くなってから相談に来られた家がありました。相続人は母と、知的障害のあるお子さん、そしてもう一人のお子さん。分割協議に後見人が必要だと分かったのが、相続開始から4か月ほど経った頃です。そこから申立ての準備をして、選任が済んだのは申告期限の2か月前でした。財産の中身は複雑ではなかったのに、期限に追われる形になりました。手続きの存在を知っているかどうかだけの差です。
親が元気なうちに家族信託を組んでおけば、後見の手続きを踏まずに、決めた人が財産を管理して支出できます。誰を受託者にするかを含めて、判断能力があるうちに決めておく必要があります。親が先に判断能力を失うと、どちらの手も打てなくなります。
その子が亡くなった後のことまで書く
最後に、話しにくいことを書きます。
その子に配偶者も子もいなければ、その子が亡くなったとき、財産はきょうだいへ、きょうだいもいなければ最終的に国庫へ入ります。せっかく残した財産が、意図しない形で流れていくことがあります。
家族信託では、受益者が亡くなった後の次の受益者まで指定できます。「この子の生活のために使い、亡くなった後に残った分は、面倒を見てくれた妹へ」という設計ができます。遺言では、自分の財産の行き先は決められても、渡した相手のその先までは決められません。ここが信託を使う理由になります。
あわせて、その子の世話を引き受けるきょうだいへの配慮も要ります。負担付きの遺贈にする、生命保険の受取人にして現金を渡す、といった方法があります。何も手当てをしないまま「あとは頼む」だけを残すと、きょうだいの関係に負担が残ります。
これらは遺言書と信託を組み合わせて設計します。どの制度も、親が元気なうちにしか使えません。
家族の事情から、お聞かせください
障害の程度、受けている支援、誰が近くにいるか。制度の選び方はそこで変わります。税金の計算だけでは決まりません。時間のかかる手続きが多いので、考え始めた時点で一度ご相談ください。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ
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公認会計士・税理士 長島祐太
















