「相続税を納めるのに、納税管理人を決めてくださいと言われました。誰に頼めばいいんですか。頼んだ人が税金を払うことになるんですか」
海外在住の相続人がいる相続で、必ず出てくるのが納税管理人です。聞き慣れない言葉なので身構える方が多いのですが、仕組みは単純です。日本にいない人の代わりに、税務署とのやりとりと納税の手続きを引き受ける窓口、それだけです。税金を肩代わりする人ではありません。
この記事では、納税管理人が何をする人か、誰がなれるか、いつどこに届け出るか、相続税をどう納めるか、そして相続が終わったあとも続く役割について、一通り書きます。
納税管理人は「窓口」であって「保証人」ではない
納税管理人は、日本に住所のない人(非居住者)の代わりに、国税の手続きを行う人です。国税通則法に定めがあります。具体的には、次のことを引き受けます。
・税務署からの書類(納付書、通知、お尋ね)を受け取る
・申告書を提出する
・税金を納める手続きをする
・還付金を受け取る
ここで押さえていただきたいのは、納税管理人は本人の税金を払う義務を負わない、という点です。納税義務はあくまで海外にいるご本人にあります。納税管理人は、本人から預かったお金で納める、あるいは本人の口座から納める手続きをするだけです。連帯保証人のように、本人が払わなければ代わりに払わされる立場ではありません。
ですから、群馬のご家族が納税管理人を引き受けても、ご家族の財産が差し押さえられることはありません。この誤解で引き受けを渋る方が多いので、最初に申し上げています。
誰がなれるか。家族か、税理士か
納税管理人になれるのは、日本に住所のある個人か法人です。資格は要りません。群馬にお住まいのご家族でも、当事務所のような税理士事務所でも、どちらでも構いません。
ご家族が引き受ける場合の利点は、費用がかからないことです。欠点は、税務署からの書類が届いたときに、何をすればいいか分からず放置してしまいがちなことです。相続税の申告が終わったあと、数年後に税務署から連絡が来ることがあります。そのとき対応できるかどうかです。
税理士事務所が引き受ける場合は、届いた書類の意味を判断して、ご本人に連絡し、必要な対応まで行います。費用はかかりますが、ご本人もご家族も、税務署からの封筒を気にする必要がなくなります。
当事務所では、相続税の申告をお受けした場合、納税管理人も合わせてお受けしています。相続人が複数名海外にいる場合は、全員分をまとめて引き受けます。
届出の時期と提出先
「納税管理人の届出書」という1枚の書類を税務署に出します。本人と納税管理人の両方が署名する欄があります。
・提出先:相続税の場合、亡くなった方の住所地を管轄する税務署。高崎市・渋川市・安中市なら高崎税務署、前橋市なら前橋税務署です
・時期:相続税の申告書を出すまでに。申告書と同時でも構いません
・費用:手数料はかかりません
これから海外に転居する方が、転居後に相続税の納税をする見込みであれば、出国前に出しておきます。相続が起きてから海外に行く場合も同じです。納税管理人を変えたいときや、ご本人が帰国して不要になったときは、解任の届出を出せば終わります。一度引き受けたら一生、ということはありません。
なお、国税の納税管理人と、固定資産税などの地方税の納税管理人は別の届出です。相続した土地や建物を持ち続けるなら、市町村にも届け出ます。これは後半で書きます。
海外からの相続税の納め方
相続税は、申告期限と同じ、亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内に納めます。海外にいる方が実際にどう納めるかは、日本の銀行口座が残っているかどうかで変わります。
・日本の口座が残っている場合:その口座からインターネットバンキングで納付できます。納税管理人が納付書を持って銀行で納めることもできます
・日本の口座がない場合:相続した預金を納税に充てるか、海外から納税管理人の口座に送金し、納税管理人が納めます
・クレジットカード納付:国税のカード納付は可能ですが、上限額と手数料がありますので、相続税の額によっては向きません
海外からの送金は、着金まで数日かかり、為替の手数料もかかります。期限ぎりぎりに送金すると、着金が間に合わないことがあります。納税額が固まったら、2週間以上前に動くのが安全です。
実務でよく取るのは、相続した預金を解約し、その中から納税分を確保する方法です。海外の相続人が相続する預金があれば、解約金の一部をそのまま納税に回し、残りを海外に送金します。ご本人が海外から送金する手間が省けます。この段取りは、遺産分割の案を作る段階で組み込んでおきます。
届け出ないとどうなるか
納税管理人を届け出ないまま海外にいると、税務署からの書類は日本の最後の住所に送られます。誰も受け取れなければ、税務署は公示送達という方法で「送った」ことにできます。本人が知らないうちに期限が進み、延滞税や加算税がかかる、という流れです。
相続税の申告後、税務署から問い合わせや調査の連絡が来るのは、申告から1〜2年後が多いです。その頃には相続のことを忘れていますし、海外にいれば封筒を見ることもありません。納税管理人は、この空白を埋めるための仕組みです。群馬のご家族が納税管理人なら、封筒が届いた時点で当事務所にご連絡いただければ対応できます。
また、相続税の還付が生じた場合、納税管理人がいなければ受け取る窓口がありません。納めすぎた税金が戻ってこない、という損も起きます。
相続のあとも続く:固定資産税・賃貸・売却
相続税の申告が終わっても、群馬の実家や土地を持ち続ける限り、納税管理人の役割は続きます。
固定資産税は、毎年4月ごろに市町村から納税通知が届きます。海外在住の方は市町村に「固定資産税の納税管理人」を届け出て、その人が通知を受け取り、納めます。国税の届出とは別ですので、相続登記が終わったら市役所にも出します。
実家を貸す場合は、所得税の話になります。海外在住の方が受け取る家賃は、借主が20.42%を源泉徴収して国に納める決まりです。手取りが8割になりますが、翌年に確定申告をすれば、経費を引いたうえで計算し直し、引かれすぎた分が戻ることが多いです。この確定申告も納税管理人を通して行います。
売る場合も同様です。買主が売却代金の10.21%を源泉徴収します。翌年の確定申告で、取得費や譲渡費用を引いて精算します。相続した空き家の3,000万円控除や、相続税の取得費加算が使えれば、源泉徴収された分が戻ってきます。取得費加算の仕組みはこちらに書いています。
つまり、海外在住の方の納税管理人は、相続税で1回、固定資産税で毎年、賃貸や売却があればその都度、と長く続きます。相続税の申告だけで契約が終わる事務所より、その後も同じ窓口が続く事務所に頼むほうが、ご本人の手間は少なくて済みます。海外在住の相続人がいるご家族向けの進め方は海外在住の相続人がいる方へのページにまとめています。
海外在住の相続人がいるご家族の相続税申告
たかさき相続税・贈与税相談プラザでは、相続税の申告と合わせて納税管理人をお受けしています。相続後の固定資産税や、実家を貸した・売ったときの確定申告まで、同じ窓口で続けられます。帰国不要、オンラインで完結します。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ
TEL 027-335-9606(平日9:00〜17:30 日本時間)
群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル2階
公認会計士・税理士 長島祐太
















