「私は東京で借家住まいで、実家には20年帰っていません。それでも実家の土地の特例は使えると聞いたんですが」
使えます。ただし、条件がかなり細かい。そして条件のうちのいくつかは、相続が起きてからでは絶対に動かせません。
別居している子でも自宅の土地の評価額を8割減らせる。これがいわゆる家なき子特例です。名前だけは広く知られていますが、平成30年の改正で要件が厳しくなり、以前の情報のまま理解している方が多い制度でもあります。
このコラムでは、誰が使えて誰が使えないのかを、順番に整理します。
目次
別居していても8割減は使える
小規模宅地等の特例は、自宅の土地の評価額を330平方メートルまで8割減らせる制度です。取得する人ごとに要件があり、配偶者は無条件、同居していた親族は住み続けることが条件になります。
この2つに当てはまらない、別居している子のための枠が用意されています。これが家なき子特例です。正式な名前ではありませんが、実務でも一般にもこの呼び方が定着しています。
制度の趣旨は、持ち家を持たずに借家で暮らしてきた子が、いずれ実家に戻る可能性を残すことにあります。だから「家がない子」なのです。この趣旨を頭に置いておくと、細かい要件の理由が分かりやすくなります。
入口の2条件|配偶者と同居相続人がいないこと
まず、被相続人の側の条件が2つあります。ここでふるいにかけられる方が非常に多い。
ひとつめ。亡くなった方に配偶者がいないこと。お母さまが健在なら、家なき子は使えません。配偶者がいる場合は、配偶者が取得すれば無条件で8割減が使えるからです。つまり、この特例が出番になるのは二次相続の場面が中心になります。
ふたつめ。同居していた相続人がいないこと。実家に同居していた兄弟が一人でもいれば、別居している子は使えません。ここで言う相続人は法定相続人のことで、相続放棄をした人がいても、放棄がなかったものとして数えます。
この2つは、亡くなった時点の事実で決まります。どうにもなりません。だから入口なのです。
本体は「3年間、持ち家に住んでいない」
入口を通ったら、次は取得する子の側の条件です。相続が始まる前の3年間、次のいずれかが所有する家に住んでいないことが求められます。
・自分
・自分の配偶者
・自分の三親等内の親族
・自分と特別の関係がある法人(自分が支配している会社など)
三親等内の親族には、兄弟姉妹、おじ・おば、甥・姪、祖父母などが含まれます。つまり、お兄さんの持ち家に間借りしている、亡くなった叔父の家に住まわせてもらっている、といったケースは要件を満たしません。持ち家を持っていなくても、です。
賃貸マンションやアパート、会社の社宅(勤務先が自分の支配する法人でなければ)は問題ありません。ここが本来の「家なき子」です。
平成30年改正でふさがれた抜け道
今の要件がここまで細かいのは、以前の制度が使われすぎたからです。
改正前は、単純に「3年以内に自分または配偶者の持ち家に住んでいないこと」でした。そこで、自宅を自分の子や自分の会社に売り、そのまま住み続けて名義だけ手放す、という方法が広まりました。住んでいる家は同じなのに、書類の上では家なき子になる。親族の家に住民票を移す例もありました。
これを封じたのが平成30年の改正です。三親等内の親族と特別関係法人が追加され、さらにもう一つ条件が加わりました。相続の時点で住んでいる家を、過去に一度でも自分が所有していたことがないこと。売って名義を外しても、以前所有していた事実が残っていれば使えません。
前回書いた区分登記された二世帯住宅で家なき子が使えないのも、同じ理屈です。子世帯部分は子自身の持ち家ですから、そこに住んでいる時点で要件から外れます。
住まなくていい。ただし売ってはいけない
同居していた親族が使う場合は、申告期限まで住み続けることが条件になります。家なき子には、この居住継続の要件がありません。相続したあと、実家に戻らなくても構いません。
ただし、保有の要件はあります。申告期限、つまり亡くなってから10か月が過ぎるまでは、その土地を持ち続けなければなりません。期限前に売却すると特例は使えなくなります。
実家を相続してすぐ売るつもりの方は、ここに注意してください。買い手が見つかっても、決済を申告期限のあとに設定する。それだけで結果が変わります。急いで売って、8割減を失った例を実際に見ています。
もうひとつ、忘れられがちな条件があります。申告期限までに、遺産の分け方が決まっていることです。誰が実家を取得するかが決まらないまま期限を迎えると、その時点では特例を使えません。いったん特例なしの税額で納めることになります。
救済はあります。申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を付けておけば、あとで分割がまとまった時点で特例を適用し、納めすぎた税金を取り戻せます。ただし、この書類を出し忘れると救済も受けられません。兄弟間で話がまとまりそうにないときほど、期限までに何を出しておくかが効いてきます。
高崎の実家でよくある2つのパターン
この特例が問題になるのは、たいてい同じような状況です。
使えるパターン。お父さまが数年前に亡くなり、お母さまが高崎の実家で一人暮らしをしていた。子は東京や埼玉で就職し、ずっと賃貸暮らし。お母さまが亡くなって、子が実家の土地建物を相続する。配偶者はいない、同居の相続人もいない、3年間持ち家に住んでいない。要件を満たします。
土地が200平方メートル、路線価が1平方メートルあたり12万円なら、評価額は2,400万円。8割減が使えれば480万円になります。課税価格が1,920万円下がる計算です。
使えないパターン。同じ状況でも、子が数年前にマイホームを買っていた場合は使えません。持ち家に住んでいるからです。実家を相続するのが、たまたま家を建てた翌年だった、ということが起こります。
兄弟のうち一人が実家でお母さまと同居していた場合も、別居の子は使えません。この場合は、同居していた子が取得して住み続けるほうが有利になります。誰が取得するかで結論が変わるということです。
整えられるのは、生きているうちだけ
家なき子の要件は、相続開始前3年間の状況で判定されます。相続が起きてから引っ越しても、間に合いません。
だからこの制度は、親が元気なうちに確認しておく類のものです。子が持ち家を買うかどうか、いつ買うか。誰が実家を相続する予定なのか。同居している兄弟がいるのかどうか。この3つが分かれば、使えるかどうかはほぼ判定できます。
そして、そもそも相続税がかかるのかどうかも先に確かめておいてください。基礎控除の範囲に収まっているなら、特例を気にする必要はありません。順番としては、総額を出す、次に特例が使えるかを見る。この順です。
実家を相続する予定の方へ
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