「ざっくりでいいので、うちだといくらくらいになりますか」
相談の場でいちばん多い質問です。先日も高崎市内にお住まいの60代の方から、同じ聞き方をされました。お父様の資産がだいたい1億円くらいある、と。
ここで答えを先に書きます。資産1億円、相続人が配偶者と子2人という一般的な家族構成なら、納める相続税はおよそ315万円です。ただしこの数字は、いくつかの前提が変わるだけで倍にも半分にもなります。その振れ幅こそが、この記事でお伝えしたいことです。
目次
そもそも「資産1億円」とは何の1億円か
計算に入る前に、一つだけ確認させてください。
相続税の計算に使うのは、時価でも購入価格でもなく相続税評価額です。この違いが、ご自身の見積もりを大きく狂わせます。
土地は路線価で評価します。路線価は公示地価のおおむね8割の水準です。建物は固定資産税評価額そのままで、新築でも建築費の5〜6割程度になります。つまり「不動産を含めて1億円の資産がある」とご本人が思っていても、相続税の世界では8,000万円ということが普通に起きます。
逆のパターンもあります。生命保険金や死亡退職金は、通帳に載っていないのに相続税の課税対象です。名義がお子さんになっている預金も、実質的にお父様のものであれば相続財産として扱われます。この論点は当プラザのコラムでも取り上げていますが、実際の申告で最も揉めるところです。
以下では、相続税評価額ベースで1億円という前提で進めます。
高崎の典型的な1億円の中身
群馬でこの規模のご家庭を見ていると、財産の構成にはっきりした型があります。おおよそこんな内訳です。
・自宅の土地(180㎡、路線価8万円/㎡) 1,440万円
・自宅の建物(固定資産税評価額) 700万円
・賃貸アパート(土地・建物) 2,400万円
・預貯金 3,800万円
・上場株式・投資信託 1,100万円
・生命保険金 1,500万円(非課税枠1,500万円で全額控除)
・葬儀費用等の債務控除 ▲140万円
生命保険金の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」です。相続人が3人なら1,500万円まで課税されません。この枠を使い切っていないご家庭は、群馬でもかなり多いと感じます。
上の内訳だと、課税価格の合計はおよそ9,300万円。ただ本記事では分かりやすさを優先して、課税価格1億円ちょうどで計算します。
実際に計算してみる(配偶者+子2人)
相続税の計算は、いったん法定相続分どおりに分けたと仮定して税額を出し、そのあと実際の取得割合で割り振る、という二段構えになっています。順番に見ていきます。
①基礎控除を引く
基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数。相続人が3人なので4,800万円です。
1億円−4,800万円=5,200万円。これが課税される部分です。
②法定相続分で仮に分ける
配偶者が2分の1で2,600万円、お子さんが4分の1ずつで1,300万円ずつ。
③それぞれに税率をかける
3,000万円以下の部分は税率15%、控除額50万円です。
・配偶者 2,600万円×15%−50万円=340万円
・子A 1,300万円×15%−50万円=145万円
・子B 1,300万円×15%−50万円=145万円
合計すると630万円。これが一家全体の相続税の総額です。
④配偶者の税額軽減を適用する
配偶者が法定相続分どおり2分の1を取得した場合、配偶者の負担分はゼロになります。残るのはお子さん2人分の315万円。
これが冒頭の答えです。1億円の資産に対して315万円。率にすると3.2%ほどです。想像していたより低い、と感じる方が多いのではないかと思います。
ただし、この軽減を使うには申告が必要です。税額がゼロでも申告しなければ適用されません。詳しくは配偶者の税額軽減についてのコラムをご覧ください。
特例を使うと315万円が半分以下になる
ここからが本題です。同居していた配偶者が自宅を相続する場合、小規模宅地等の特例で土地の評価額が80%減額されます。
先ほどの例で自宅の土地1,440万円が288万円になると、課税価格は1億円から8,850万円ほどに下がります。基礎控除4,800万円を引いた課税遺産総額は約4,050万円。
・配偶者 2,025万円×15%−50万円=約254万円
・子 1,012万円×15%−50万円=約102万円(2人で約204万円)
総額は約458万円。配偶者軽減後の納付額は約229万円になります。315万円から86万円下がった計算です。
賃貸アパートの敷地にも、貸付事業用宅地として200㎡まで50%減の特例があります。これを併用できれば、さらに下がります。自宅と賃貸用の併用には面積の調整計算が必要なので、どちらを優先するかで結果が変わってきます。適用要件は小規模宅地等の特例についてのコラムにまとめました。
同じ1億円でも、財産の中身と誰が何を相続するかで、税額は倍近く動きます。「1億円ならいくら」という単純な対応表が作れないのは、このためです。
二次相続では770万円に跳ね上がる
315万円という数字を見て安心してしまう方がいます。ここが、いちばん見落とされやすい落とし穴です。
お母様が亡くなったときの相続、いわゆる二次相続を計算してみます。相続人はお子さん2人だけ。
基礎控除は3,000万円+600万円×2人=4,200万円。仮に財産が同じく1億円だとすると、課税遺産総額は5,800万円。法定相続分は2分の1ずつなので2,900万円ずつです。
・子A 2,900万円×15%−50万円=385万円
・子B 2,900万円×15%−50万円=385万円
合計770万円。しかも配偶者の税額軽減はありません。全額を納めることになります。
一次相続で配偶者に多く寄せると、そのときの税額は下がります。ただ寄せた財産はいずれ二次相続で課税されるうえ、相続人が1人減るので基礎控除も税率区分も不利になる。一次と二次を通算すると、配偶者に寄せないほうが安く済むケースがかなりあります。
最初の相続のときに二次相続まで計算しておく。これができるかどうかで、ご家族が最終的に払う総額は数百万円変わります。
問題は税額より、払える形になっているか
最後に、金額の話とは別の観点を一つ。
相続税は、亡くなってから10か月以内に現金で納めます。分割払いは原則できません。
先ほどの内訳を見返してください。1億円のうち、自宅と賃貸アパートで4,500万円強。財産の半分近くが不動産です。群馬でこの規模のご家庭だと、不動産が6割から7割を占めることも珍しくありません。
預金が3,800万円あれば315万円の納税には十分ですが、その預金をお子さんが相続していなければ意味がない。不動産だけを相続したお子さんが、自分の貯金から納税する事態は実際に起きます。
税額がいくらかを知ることと、それを誰がどう払うかを設計することは、別の作業です。私が相談の場で分割の話を先にするのは、そのためです。
ご自身のご家庭でどれくらいになるか、まずは概算を出すところからだと思います。かんたん相続税診断なら3分ほどで目安がつかめますので、入口としてお使いください。
ご自宅と預金の内訳から試算します
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