「証券会社から分厚い封筒が届いたんですけど、これ、どうすればいいんでしょうか」
預金と不動産の話が一段落したころに、思い出したように出てくるのが株の話です。父が何を持っていたのか家族は把握していない、という状態が普通です。
上場株式と投資信託は、預金と違って、いくらで評価するかに選択の余地があります。しかも、手続きの順番を間違えると余計に時間がかかります。
評価の考え方と、名義変更の実際の流れを書きます。
目次
上場株式は、4つの値段のうち一番低いものを使える
上場株式の相続税評価額は、次の4つのうち最も低い金額です。
亡くなった日の終値
亡くなった月の終値の月平均
その前月の終値の月平均
その前々月の終値の月平均
株価は日々動きますので、たまたま高い日に相続が起きた家が不利にならないよう、3か月分の平均まで遡って選べるようになっています。
数字で見ます。1,000株持っていて、亡くなった日の終値2,050円、当月平均2,100円、前月平均1,980円、前々月平均2,150円だったとします。最も低いのは前月平均の1,980円ですから、評価額は198万円です。前々月平均を使った場合は215万円ですので、17万円の差が出ます。
銘柄ごとに一番低いものを選べます。全銘柄で同じ月に揃える必要はありません。持ち株が多い家ほど、ここで差が出ます。
なお、亡くなった日が土日祝で取引がない場合は、前後で最も近い日の終値を使います。前後が同じ日数で離れているときは、その平均です。
月平均の株価は、証券取引所や日本取引所グループのサイトで確認できますし、証券会社に依頼すれば「残高証明書」に相続開始日の残高と評価の資料を付けてもらえます。まず取るべきはこの残高証明書です。銘柄と株数が確定しないと、評価の計算に入れません。
投資信託は「解約したら手元に残る額」で評価する
投資信託は、種類によって評価方法が分かれます。考え方は共通していて、亡くなった日に解約したら手元にいくら残るか、で計算します。
一般的な投資信託
証券会社や銀行で買う、上場していない投資信託です。基準価額に口数を掛けた金額から、解約したときに源泉徴収される所得税等と、信託財産留保額や解約手数料を引きます。
基準価額15,000円(1万口あたり)を50万口持っていたとします。時価は75万円です。含み益が20万円あれば源泉徴収されるのは40,630円、信託財産留保額が0.3%なら2,250円。評価額は707,120円になります。
時価より4万円ほど下がります。証券会社の残高報告書に載っている金額をそのまま使うと、その分だけ多く申告することになります。
MRF・MMFなど日々決算型
1口あたりの基準価額に口数を掛け、源泉所得税を引いた未収分配金を足し、信託財産留保額と解約手数料を引きます。ただ、いまのMRFは信託財産留保額がゼロで利回りもごくわずかですので、実際には口数がそのまま評価額になることがほとんどです。
ETF・J-REIT
上場している投資信託と不動産投資信託は、上場株式に準じて評価します。つまり先ほどの4つの値段のうち最も低いものを使えます。同じ「投資信託」という名前でも、扱いがまったく違います。
名義変更は「移管」。相続人も口座を作る必要がある
ここでつまずく方が多いです。株や投資信託は、預金のように解約して現金で受け取る形にはなりません。亡くなった方の口座から、相続する人の口座へ「移管」します。
つまり、相続人が同じ証券会社に口座を持っていなければ、まず口座を開くところから始まります。証券会社に相続の連絡をすると口座は凍結され、売ることも買うこともできなくなります。書類を揃えて移管が終わるまで、株価が下がっても手が出せません。
必要になるのは、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍と印鑑証明書、遺産分割協議書、証券会社所定の相続手続依頼書です。不動産の相続登記と同じ書類が使えますので、まとめて多めに取っておくと二度手間になりません。
移管そのものに期限はありませんが、相続税の申告期限は10か月です。証券会社の手続きは書類の不備で往復することが多く、1か月では終わらないと考えておいてください。
見落としやすい3つ
1.まだ受け取っていない配当金
配当の権利が確定した後、実際に振り込まれる前に亡くなった場合、その配当を受け取る権利が相続財産になります。株の評価額とは別に計上が必要です。3月決算の会社が多いので、4月から6月に相続が起きた家では必ず確認します。
2.単元未満株
昔の株式分割や合併で、100株に満たない端数が残っていることがあります。取引所では売買できませんが、財産であることに変わりはありません。残高報告書の隅に小さく載っています。
3.特別口座に眠っている株
これがいちばん見つかりません。2009年の株券電子化のときに、証券会社に預けていなかった株は、信託銀行などの「特別口座」に移されました。証券会社の残高報告書には載りません。心当たりがなくても、信託銀行から株主宛の通知が届いていないか、郵便物を確認してください。
申告の準備を進めていた家で、遺品を片づけていたご長男から「こんな封筒が出てきた」と連絡をいただいたことがあります。信託銀行からの配当金計算書でした。証券会社の残高には一切出てこない銘柄で、調べたら特別口座に残っていました。財産に加えて申告し直しました。期限前に見つかったのは運がよかったです。
株は共有にしないほうがいい
分け方で迷ったとき、「とりあえず法定相続分で共有」としたくなります。おすすめしません。
共有のままだと、売るのも移すのも全員の同意が必要になります。株価が動いても、一人が売りたいと言っただけでは動けません。分割協議書に「A銘柄1,000株は長男、B銘柄500株は次男」と銘柄ごと株数ごとに書いてしまうほうが、後が楽です。
金額を揃えたいなら、売って現金で分ける方法もあります。ただしその場合も、いったん誰かの名義に移してからでないと売れません。順番は変えられません。
もう一点。亡くなった方がNISA口座で持っていた分は、相続人のNISA口座には移せません。相続人の課税口座への移管になります。非課税の枠は引き継げないということです。近年はNISAで投資信託を積み立てている方が増えていますので、今後この確認は増えていくと思います。
売るときの税金は、また別の話
相続した株を売ると、譲渡所得の税金がかかります。ここで問題になるのが取得費です。
相続した株の取得費は、亡くなった方が買ったときの値段を引き継ぎます。相続税評価額ではありません。40年前に買った株なら、その当時の取得価額です。分からない場合は売却価額の5%で計算することになりますが、それだと売った額のほぼ全部が利益とみなされます。
証券会社に取得価額の記録が残っていることがありますので、移管の手続きをするときに、あわせて確認しておいてください。後から遡ると手間がかかります。
証券会社の書類、そのまま持ってきてください
残高報告書と取引報告書があれば、評価額はこちらで計算します。どの月の平均を使うか、投資信託の控除項目に漏れがないか、未収の配当がないか。持ち株が多い家ほど、ここで金額が動きます。整理してからでなくてかまいません。
たかさき相続税・贈与税相談プラザ
TEL 027-335-9606(平日9:00〜17:30)
群馬県高崎市江木町610-10 ミノラスビル2階
公認会計士・税理士 長島祐太
















